色彩
■ 22.長い髪


『・・・その辺に居たりしないよね?』
青藍はきょろきょろとあたりを見回す。
「居ないと思うよ・・・。あの方、こんなところに来ないでしょ。十五夜様じゃないもの。」


『だよねぇ。甘いものがあるところにしか出てこないもんね。』
「そんな蟻みたいに言うのはどうかと思うけど・・・。もしかして、僕らのこと見ているのかな?」


『うーん・・・。今日は満月だから、それはないと思う。』
月を見上げて、青藍は言う。
「そっか。月の宴だ。」
釣られたように蓮も月を見て呟く。


『うん。今日は安曇様も舞っているのかもしれない。あの方が遠い。』
「じゃあ、予言?」
『・・・あり得そうで怖いよね。』
青藍は苦笑する。


「まぁ、あの方から聞いたのかも。」
『それ、僕なんかに教えていいのかな。』
「いいんじゃない?愛し子だし。」
『そうだね。安曇様が教えてくれたってことは、僕が知ってもいいことなのだろう。』


「結ぶ?」
『うん。お願い。』
蓮は髪紐を受け取って、青藍の髪を梳かす。
「本当に長くなったね。橙晴より長いかも。」
『そう?』


「うん。・・・どうして切らないの?邪魔じゃない?」
『・・・あの子が触れた髪だと思ったら、切るのが惜しくなっちゃって。ほんの少しだって、あの子を忘れたくなかった。繋がりを、切りたくなかった。髪を切っても繋がりが消えるわけじゃないとは解っているんだけど、何となく、願掛け、みたいな。』


「そっか。・・・会えるよ、青藍。あの子は、ずっと、待っているよ。」
『うん・・・。』
「ふふ。君たち、同じことを言うんだねぇ。」
青藍の髪を纏め始めながら、蓮はおかしそうに言う。


『同じこと?』
「うん。浮竹隊長から聞いたのだけれど。」
『うん?』
「深冬が髪を伸ばす理由。」
『髪を伸ばす理由・・・?』


「そう。髪を切ったら、他の繋がりまで切れてしまいそうだから、なんだってさ。あの髪が、青藍と深冬の繋がりを作って、そこから安曇様、朽木隊長、咲夜さん、浮竹隊長、その他たくさんの繋がりが出来たから、切るのは怖いみたい。まぁ、青藍があの髪を綺麗だと言ったから、という理由もあるけれど。今も、長いままだよ。相変わらず、眩しいくらいに輝いて、綺麗な髪だよ。・・・よし。出来た。」


『ありがと。・・・似合う?』
青藍は嬉しげに聞く。
「当たり前でしょ。安曇様のお手製なんだから。その上、この僕が結んだのだから、似合わないわけがない。」


『あはは。そうだね。蓮は昔から、橙晴や茶羅の髪を結んでいたもの。』
「そうそう。それに、今だって僕は毎日玲奈さんの髪を結んでいるの。」
『ふぅん?それで、自分で解くわけだ。』
「・・・それは、秘密。」


『会いたい?』
「そりゃあ、愛する妻だもの、会いたいでしょう。青藍が深冬に会いたいくらいには会いたいよ。」
当然とばかりに言った蓮に青藍は笑う。


『ふふ。僕、会いたいなんて、一言も言っていないじゃない。』
「馬鹿じゃないの。そんなの言っていないだけに決まっているじゃない。言葉にしないのは、帰るまでとっておきたいからでしょ?さっきから深冬の名前も呼ばないし。どうせ、こっちに来てから、一度も深冬の名前を呼んでいないんでしょ?」
解っているんだから、とばかりに蓮は言う。


『どうしてわかるの?』
「青藍、深冬に関してだけは解りやすいもの。深冬も青藍に関してだけは解りやすいのだけれど。・・・あの子、青藍がこっちに来てから、一度も泣いていないよ。ずっと、前を向いていたよ。だから、帰ったら、青藍が泣かせてあげてね。青藍も泣いていいから。」
『あはは。うん。』


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