色彩
■ 21.祝いの髪紐


「それから、出来れば、三番隊の執務室に来るのは、遠慮して頂きたいと、言いますか・・・。」
紫庵は言いづらそうに言う。


『え、何で!?』
「何でって、自覚ないんです!?うちの隊士は青藍さんにトラウマを植え付けられているようですが!?」
『トラウマ・・・?』
青藍は心当たりがないと言った様子で小首をかしげる。


「え、自覚なし?隊長たちを一言で黙らせたのに?・・・蓮さん!この人おかしいです!いや、でも、蓮さんにも若干トラウマが・・・。」
「え、僕、何したっけ?」
「惚けないでください!!元七席をこってり絞ったと聞きましたぞ!?」


「あはは。あれは・・・ねぇ、青藍?」
『うん。あれは・・・。』
『「自業自得だよね。」』
笑顔で言い放った二人に、沈黙が落ちる。


「・・・ねぇ、侑李君。」
「なんすか?」
「この二人、容赦ないの・・・?」
陵は恐る恐ると言った様子で囁くように問う。


「・・・まぁ、これが通常運転です。慣れてください。」
「慣れ・・・?」
「陵さん、その辺は気にしたらダメです。」
「あの程度で震えていては身が持ちませんよ。二人揃うと特に容赦がないので。」


『「何か言ったかな、侑李、京?」』
「いや、何も。」
「気のせいでしょう。」
微笑みながら二人に問うが、問われた二人は、素知らぬ顔で答える。


流した・・・。
迅たち五人はその様子を見て内心で呟く。


「あはは。これが日常ですので、慣れますよ。青藍の周りは、騒がしい。それで、死ぬほど振り回されます。僕ら、院生時代から巻き込まれてしまいまして。まぁ、そのお蔭で、こんなに早く席官になることが出来たわけですが。」
迅たちの内心の呟きが聞こえたのか、キリトは苦笑しながら言う。


「青藍のそばに居るのは、とても大変です。でも、それでも何故だか、僕らは、こんなところまで迎えに来てしまうほど、青藍からは離れることが出来なくて。」
キリトはおかしそうに笑う。


「自分でも不思議です。青藍を助けるために、十日も走り続けたり、刺客と戦わなきゃならなかったり、無茶する青藍に顔を青くしたり。何で、こんなことをしているのでしょうねぇ。でも、それが嫌だとは、一度も思ったことがないのです。」
穏やかに言ったキリトに、迅たちは小さく笑う。


「それが朽木青藍という男なのだろう。」
「そうだねぇ。何だか、面白そうだ。」
「そうだな。」


「俺たちも睦月さんたちみたいに一週間昼夜走らされたりして。」
「それは辛いな。」
そう言った彼らにキリトは微笑む。
「ふふ。大変ですねぇ。」


その日の夜。
皆が仮眠をとる中、青藍と蓮は見張りをしていた。
「・・・あ!そうだ!青藍に渡す物があるんだった!」
蓮は思い出したように荷物をあさり始める。


『渡す物?』
「うん。青藍の髪が伸びたって聞いて・・・。あれ、この辺のはず・・・。」
『髪?』
「出発する何日か前に、安曇様が、髪紐を渡してやれ、って渡してきたの。なんか、お祝い?って、言っていたけど・・・あ!あった!」
そう言った蓮の手には箱が一つ。


「これを渡してくれって。」
差し出された箱を不思議そうに受け取って、青藍はその蓋を開ける。
中から出て来たのは、空色と藍色で編まれた髪紐である。
青藍がそれに触れると、光を帯びて、声が聞こえてきたのだった。


「そなたのために皆が働いた。皆の願いが、理を動かし、そなたの未来が拓けたことを祝う。我らが愛し子は、我らに未来を与えた。我らが愛し子に祝福を。・・・・瀞霊廷で待っておる。早く帰ってくるのだぞ。私たちは待つのに飽いた。明日、一日走れば、睦月と師走が待っているだろう。帰りは早いぞ。」
声が消えると同時に、髪紐の光も消えていく。
青藍はきょとんとしながら、それを見つめる。


『・・・安曇様の声、だね。』
「そうだったね・・・。」
『未来が拓けたって何だろう?』


「さぁ?何か悪い未来でも見えていたんじゃない?」
『何それ。怖いんですけど。』
「でも、未来が拓けてお祝いだって言っているから、いいことになったんじゃない?」
『それならいいけど・・・。』


「まぁ、帰ったら聞けばいいよ。本人が待っているって言っているし。」
『そうだね・・・ん?これ、出発する数日前に渡されたんだよね?』
青藍は首を傾げる。
「そうだよ?」


『何で、明日一日走れば睦月と師走が待っているって・・・。』
「・・・あ、そうか。僕らは二週間かけてここに来る予定だったんだっけ。」
『何で明日帰ること知っているの?』
「いや、僕に聞かれても・・・。」


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