色彩
■ 11.気付いた人


「・・・さて、ランが起きたことだし、僕らは帰ろうか、響鬼。」
「そうですね。ラン様、お体は如何です?」
問われて青藍は自分の左胸に手を置く。


『あれ、怪我がない・・・?』
傷がないのを確認して、青藍は首を傾げた。
「治しましたので。」
『そっか。体も軽い。』
「それはようございました。」


『ありがとう、響鬼。』
青藍はそう言って響鬼の頭を撫でる。
「いえ。お安いご用です。」
響鬼は気持ちよさそうに撫でられながらそう言った。
十五夜はその様子を納得がいかないとばかりに不満そうに見つめる。


「・・・僕が撫でると怒るくせに。」
「何で糞爺に撫でられて喜ばなくちゃならないんですか。」
「酷い・・・。最近口が悪いよね。昔はもう少し丁寧だったのに。」
「いつの話ですか。良いから帰りますよ、お月見様。お月見様はお月様の癖に昼夜関係なく忙しいんですから。」
響鬼はそう言って十五夜の袖をつかむと空間を開いた。


「はいはい。・・・あ、そうだ。一応言っておくけれど、その子に手を出した奴は碌な死に方しないから、気を付けることだよ。我らは我らが愛し子を傷付けた者を許さない。主によく言っておきなさい。まぁ、罪に問われるのは主だけではないけれど。」
十五夜はそう言って迅たち以外の者を冷ややかに見つめる。
彼等は小さく震えたようだった。


「ラン。次は、瀞霊廷で会おう。もう少し、辛抱しなさい。じゃあ、またね。」
十五夜はそう言うと響鬼に引っ張られながら空間に入って行ったのだった。


「え・・・なんだったの・・・?」
「今、空間の中に消えて行ったか・・・?」
「消えましたね・・・。」
「消えたな・・・。」
突然やってきて目の前で消えた二人に迅が唖然としていると後ろからそんな声が聞こえてきた。


「「「「「何者・・・。」」」」」
声を揃えて呟いた五人に青藍は苦笑する。
『あはは・・・。お騒がせいたしました。あの二人は、何というか・・・僕の、庇護者、といいますか・・・。まぁ、そんな感じの方々です。』


「俺、何から聞いていいのか解らないんだけど。」
「そもそも聞いていい話か?」
「何か物騒なこと言い残していかなかったか?」
『えーと、ですね・・・。僕も、何処から話していいのやら・・・。』
青藍は困ったように笑う。


「あの光、何だったの?」
陵は不思議そうに言う。
『あれは、ですね・・・僕の体には、ちょっとした術が施されておりまして。』
「ちょっとした、では、なかった気がするけど・・・。」


『あはは・・・。まぁ、その術が発動いたしました。僕の身に危険があると、発動する仕組みになっているので。』
「それはお前が愛し子とかいう奴だからか?我らが愛し子と言っていたが・・・。」
リクに問われて、青藍は首を横に振る。


『愛し子だからという理由で施された術ではありません。これは、契約に近い。この術が僕を守るのは、それだけの対価を支払っているからです。契約を違えば、この術は僕を殺しますから。』
「しかし、そんな術、見たことも聞いたこともない・・・。」
呟くように言った暦に、青藍は微笑む。


『えぇ。特殊な術ですので。僕にも仕組みはよく解りません。ただ、言えるのは、僕が初めに言ったとおりの厄介者ということです。こういうものがあるために、僕自身に力がなくても、僕は、厄介者なのです。』
「でもあの二人は、ランのこと愛し子だって。」


『愛し子と呼ばれているのは本当です。でも、愛し子というのは、あの方々がそう言うだけで、実際は愛し子と呼んでいいものなのか・・・。それを疑問に思う者もあるのです。僕自身、疑問に思うくらいですから。』
青藍は苦笑する。


「ふぅん?何か、ランって、大変なわけ?」
ケンはなんだかよく解らないと言った様子で青藍に問う。
『まぁ、そうです。色々とあるのです。』


「そっか。ま、色々あるのは俺たちも同じだからこれ以上は聞かない方がいいか。あの二人のことも聞くのはやめておく。お前のためにもな。」
そう言ったケンを見て、青藍は軽く目を見開く。


この人は、気付いてしまった。
気付いたからこそ、僕の話を遮るようなことをしている・・・。
内心で呟いて、問うように迅を見る。
小さく頷きが帰ってきて、青藍はケンを見た。
彼からも小さく頷きが返って来る。


『・・・そうして頂けると、有難いです。』
青藍はそう言って、何時ものように笑ったのだった。


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