色彩
■ 10.お月見様


『ん・・・。』
頭を撫でられているような気がして、話し声が聞こえて、青藍は目を覚ます。
瞼を開けると、目の前には響鬼と十五夜の顔があった。
「お目覚めですか、ラン様。」


『響鬼。それと・・・。』
「お月見様です。」
『・・・お月見様?』
青藍は首を傾げて、それからくすくすと笑う。


『ふふ。お月見。お月見様って・・・。ふ、はは、あはは!』
「ちょっと、笑うとか酷くない?」
笑い始めた青藍に十五夜は拗ねたように言う。
『だって、お月見様・・・ふふ・・・確かに、お月見、ですね・・・ふふふ。』


「酷いなぁ。確かにお月見ではあるけれど、そんなに笑わなくたっていいじゃないか。」
『あはは。ごめんなさい。・・・お久しぶりにございます。』
青藍は起き上がるとそう言って微笑む。


「久しぶりだね。君の活躍は、ちゃんと見ていたよ。」
「えぇ。暇さえあれば覗き見をしておりましたものね。」
「五月蝿いな。覗き見とかいうのやめてくれる?」
「覗き見としか言いようがありません。そういうのをストーカーというのです。」


「そんな!?違うよ!?僕は、ただ、心配で・・・。」
響鬼にしれっと言われて、十五夜は焦ったように青藍を見る。
『・・・ふふ。お月見様はお月様なので、仕方ありませんねぇ。』
「そうそう!・・・ん?何か違う気がするけど。」


『そうですか?お月様なので、何でも見えるということですよ。』
青藍はそう言ってふわりと微笑む。
「そう考えると、僕はお月様になってしまうね。」
『えぇ。お月様ですから。・・・ちょっとたまに糞爺と思うくらいですが。』
「そんなぁ!?酷い!酷いよ・・・。」
ポツリと呟かれた青藍の言葉に十五夜は涙目になる。


『あぁ・・・。何だか余計なことまで思い出しました。お月見様は自分の不始末をこの僕に押し付けてくださいましたよね?お蔭であの子が泣いたのでした。その上、あちらこちらにご迷惑をお掛けして、その苦情が僕の所に来る始末。』
「・・・。」
微笑みながら言った青藍に十五夜は動きを止める。


『追い出すなら追い出すで危ないものは取り上げて頂きませんと、ああいうものはこちらでは大損害をもたらすのです。お月見様の春乃嵐だって、こちらでは色々と規模が大きすぎるのです。そう言えばそれで思い出しましたけど、父上との喧嘩で隊舎を破損いたしましたよね?誰が修理をしたと思っているのですか?その上、山本の爺にまでお叱りを受けたのですが。父上は素知らぬ顔で貴方のせいだ、というものですから、ちゃんと手綱を握っておけと、僕が怒られたではありませんか。』


「流石、聞けば聞くほど糞爺ですね。」
にこにこという青藍の言葉に、響鬼はぼそりと呟く。
「いや、その、それは、本当に、僕の、不手際というか・・・。」


『えぇ。不手際も不手際です。千年以上野放しにしたせいでどれほどの命が奪われたとお思いですか。貴方の立場もありましょうが、廃棄物は最後まで処理して頂かないと困ります。ああいう者に容赦は必要ありません。』
「はい・・・。」


『次あんなことをすれば、僕はお月見様を嫌いになります。』
青藍はそう言ってそっぽを向く。
「それは嫌だ!!」


『それでは、真面目にお仕事をなさることです。それでなくても僕にはやることが腐るほどあるのですから。僕に丸投げしないでください!』
「それは・・・僕にだって、色々とお仕事がある訳で。」
『何かおっしゃいました?』
「いえ、何も。一生懸命頑張ります。」


『では、嫌いになるのはやめておきます。』
「うん。僕、頑張るよ!」
「・・・馬鹿みたいに単純ですよねぇ、お月見様。いや、馬鹿みたい、ではなく、馬鹿なのでした。」


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