色彩
■ 9.金色の男


一刻ほど後。
「・・・あ、居た。響鬼ったら酷くない?仕事放り出して僕のこと置いていくなんて。」
突如そんな聞きなれない声が聞こえてきて、迅たちはその声のする方を振り向く。


金色の髪。
青い瞳。
長身痩躯の色男。
見るからにここに居るような男ではない。
そんな男が、響鬼と眠っている青藍の方へ向かっていくのだった。


「当たり前じゃないですか。お月見の糞爺より、ラン様の方が大切です。」
「お月見って、酷くないかい・・・。」
「何か文句がありますか?お月見の日に生まれたのは事実でしょう。」


「いや、そうなのだけれどね・・・。こう、お月見と呼ばれるのは、複雑というか。」
「大体、何手ぶらで来てんですか。来るなら途中で彼らを拾って来ればよかったのに。」
「いやぁ、この長距離は、彼等には酷だよねぇ。」


「酷とか酷じゃないとかそういう問題じゃないんですよ。ラン様は早く帰らねばならないのに。糞爺が使えないせいで、こんなところに三年以上いるのですよ?躾が手温かったんじゃないですか?」
響鬼はそう言って十五夜を睨む。


「いや、それは、確かに、僕の手抜かりだけれども。」
「そうでしょうね。あの馬鹿ども。帰ったら覚えておくことです。」
「あはは。今度は体に叩き込んであげようねぇ。骨の髄まで恐怖を叩き込んであげるよ。二度とこの子に手出しはさせないよ。学習しない馬鹿など必要ない。」
そんな物騒な会話をする二人に、迅は背筋を震えさせる。


「迅さん。またなんか来ましたけど、俺たちは、話しかけてもいいと思いますか?」
二人の会話に顔を引き攣らせながらケンは迅に問うた。
「・・・あれも、ランの知り合いだと思うか?」
「そうですね。そうでなければ他にあれの知り合いがいるということですが。」


「心当たりはないな。」
「俺もです。他の皆も・・・ないみたいっすよ。」
言われて迅は周りを見る。
皆が顔を引き攣らせながら二人の様子を伺っているようだった。


その二人は一体誰なんだ、ラン・・・。
助けを求めるように青藍を見るも、彼はすやすやと眠っている様子である。
それを見た迅は大きなため息を吐いて、突如現れた男に声を掛けることにしたのだった。


「・・・あの、失礼ですが、どちら様で?」
そう声を掛けられて、十五夜は迅の方を見る。
「やぁ、君が迅だね。僕は・・・。」
「お月見の糞爺です。お月見様とでも呼んでやってください。」
自己紹介をしようとした十五夜を遮るように、響鬼が素っ気なく言った。


「お月見様・・・?」
「そうです。お月見様です。糞爺でも結構ですが。」
「・・・えーと、じゃあ、お月見様で。」
「そうですか。それは残念です。」
迅の返答を聞くと、響鬼は興味がなくなったように迅から目を逸らして、青藍の頭を撫で始める。


「あー!!響鬼、狡い!!僕も撫でる!!」
それを見た十五夜も負けじと青藍の頭を撫で始めた。
「・・・その、お月見様?と、響鬼さん?は、何故、此処に?」
そんな二人に迅は恐る恐る聞く。


「ふふ。可愛い寝顔だなぁ。・・・何故、と問われれば、この子のため、としか。」
「えぇ。我らの愛し子ですから。」
言いながら二人は愛しげに青藍を見つめる。
「愛し子?」
「おや、貴方はラン様から聞いているはずですよ。自分は愛される者だと。」


「それは聞きましたが・・・。」
「それに、この子の光を見ただろう。あれは我らが施した加護だよ。まぁ、呪いともいうけどね。」
「加護?呪い・・・?」
その言葉に迅は首を傾げた。


「この子についてくるのならば、それが解る日も来よう。それはこの子の口から聞きなさい。話すかどうか決めるのはこの子なのだから。」
「えぇ。僕らから語ることは何もありません。貴方を許すのは、僕らではなく、咲夜様でもなく、この方です。」
響鬼の言葉に、迅は目を見開く。


「咲夜、様・・・?それは、あの方・・・?」
「そう。あの咲夜だよ。」
「我らはあの方の関係者です。そして貴方のことも知っています。全て。」


「だが、君は主を見つけた。迷子の期間はもう終わる。決めたのならば、迷わずついて行くことだ。この子は君に光を見せるだろう。この子は、そういう子だ。己は苦しみながらも、周りの者に光を見せる。だから皆が、この子のために動く。そして、理まで動かしてしまった・・・。それも、光ある方向に。」


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