色彩
■ 8.響鬼の力

「・・・おやおや、また無茶をなさったようですね。」
出てきたのは響鬼である。
青藍の様子をみて、そう呟くと青藍に近付いていく。


「何者だ!?」
警戒してそう叫んだ迅を、響鬼は面倒そうに見やる。
「この方の味方です。」
「一体、どこから・・・。」


「説明している暇はありません。まったく、撒き餌とはいい度胸です。こちらには敵わぬことを教えて差し上げましょう。未来に必要なのは、こちらなのですから。」
響鬼がそう言うと彼の瞳が深紅に染まる。


「・・・去ね!!!!」
響鬼が叫ぶと光が彼を包み込む。
キン!!
その光は刀が触れ合うような高い音を立てて広がっていき、虚を一匹残らず昇華した。
その様子を、迅は再び唖然としながら見つめる。


「・・・ふむ。これでいいでしょう。暫くこの一帯には虚は近寄ることが出来ません。」
響鬼はそう言うと青藍の前に片膝をついて、彼の袂を開いた。
そして、いつかのように紋様の浮き出た胸に手を添える。


『ご、めん、響鬼。』
「構いません。ラン様のご無事は既に知らせてあります。ご安心を。」
『そっか。ありがとう。』
「皆様、顔を青褪めさせておいででしたよ。」
術を施しながら、響鬼は呆れたように言う。


『また、心配かけちゃったね。』
「もう少しです、ラン様。ですが、気を抜くことはしないでください。」
『うん。』
頷いた青藍の頭を響鬼は空いている手で撫でる。


「髪が伸びましたね。あの方がお喜びになることでしょう。」
『ふふ。そうかな。僕、また悪戯されちゃう?』
「嬉々として悪戯することでしょうね。・・・さぁ、少し、お眠りなさい。傷は僕が治しておきます。お傍に居りますので、安心してお眠りになりますよう。」


『うん・・・。ありがと・・・。』
響鬼に撫でられて、青藍は眠りに吸い込まれていく。
倒れそうになる青藍の頭を抱えて、響鬼は周りを見回した。


「・・・貴方が、部隊長の迅ですね?」
そう声を掛けられて、迅はどぎまぎと返事をする。
「今日の野営地は此処です。」
「しかし、此処は虚が・・・。」


「今日一日は虚も寄ってきません。先ほどの一撃で、此処は今、清浄さで満たされています。虚が近づいて来てもこの一帯に足を踏み入れれば勝手に昇華されます。早く、野営の準備を。ラン様の寝る場所を用意してください。これの発動は、体に負担がかかるのです。」


睨むように言われて、迅は気圧される。
この少年は、何者なのだ。
近付いてはいけないと、逆らってはいけないと、本能が警鐘を鳴らしていた。
「・・・あぁ。解った。・・・今日は此処で寝るぞ!準備しろ!!」
迅に言われて隊員たちは動き出す。


「ラン、大丈夫かな・・・。」
「あの胸の紋様、見たか?普段はないよな?」
「ないな。・・・あの少年、只者じゃない。どうやって来たのかもよく解らなかった。」
「迅さん、任せておいていいんすか?ランのこと。」
ちらちらと青藍を見ながら、陵、リク、暦、ケンの四人は野営の準備をする。
それから、何か知っているか、と、問うように迅を見た。


「ランの知り合いのようだ。ランの味方だと言っていた。それに、あのランが、あんな簡単に眠ったんだ。ランの信頼がある奴なんだろう。」
迅は言いながらチラリと青藍の頭を抱えている響鬼を見る。


・・・隙がない。
ランの治療をしながらも、警戒を解いてはいない。
それに、一瞬、あの光を放つ瞬間、瞳の色が、変わっていた。


「ランって、本当に何者なんでしょうね。あの光、普通じゃないですよ。」
迅の隣に来たケンはそう言って迅を見る。
「さぁな。俺の所にも彼奴が何者かという情報は来ていない。」
「・・・俺たち、狙われてんですか。」
声を潜めてそう言ったケンを、迅は目で制する。
「滅多なことを言うな。」


「だって、可笑しいですよ、さっきの虚。ランを取り囲んで、第二陣がすぐに来た。まるで、ランが弱っているのを知っているかのように。俺たちだって、最初は、ランを殺せと命じられた。」


「・・・頼むから、それ以上は言うな。」
懇願するように言った迅に、ケンは表情を硬くする。
「本当に、そう、なんですか?俺たちが、ランを殺さなかったから?」
「・・・狙われているのは、俺たちではない。」


「それじゃあ、狙われているのは、ラン・・・。」
ケンはそこまで言って何かに気が付いたように迅を見る。
「でも、ランの居場所を正確に知ることが出来るのは・・・。」


この中の誰かでしょう?
口には出さないがそう問われて、迅は目を瞑る。
そして目を開けると、目だけで頷いた。
それを見たケンは目を見開く。


「そういうことだ。他言はするな。気付かない振りをしろ。俺たちが生き残るには、そうするしかないんだ。」
迅は悔しげに呟く。
「一体、いつから、気付いて・・・。」
「数年前だ。」


「でも、俺たちじゃないということは、つまり・・・。」
ケンはそう言って自分たちより後にここに来た者たちの方を見る。
「ランが俺たちをここから引っ張り出してくれるまで、何もするな。何も言うな。何も問うな。余計なことをすれば、ランも俺たちも無事ではいられない。いいな?」
「・・・はい。」


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