色彩
■ 7.流れる赤


三日後。
青藍は押し寄せた虚と対峙していた。
十一人いた部隊が九か月前のあれで二人、一週間前に一人減って八人となっている。
幸い、まだ、迅たち五人は生き残っていた。
しかし、流石に迅以外の四人も増え続ける虚に疑問を持ち始めている。


・・・彼らに知られてはいけない。
青藍は内心で呟く。
部隊内での殺し合いは避けたい。
僕だけが狙われるなら、それでいい。
他の皆まで狙われては生存率が低くなってしまうのだ。


そこまで考えて、青藍は迅が虚に囲まれていることに気が付く。
その虚の爪が彼の体に向かっているのを見てとって、青藍は目の前の虚を切り捨てると反射的に迅の元へ駈けたのだった。


『迅さん!!!!』
そんな声とともに、青藍が横から飛んできたのに気が付いて、迅はそちらを向いた。
そして、顔を青褪めさせる。
『っ・・・!!!』
青藍の左胸に爪が刺さっていくのが見えたのだ。


「ラン!!!」
目の前の虚を切り捨てて、迅は青藍の名を呼ぶ。
青藍に近付こうとするも、次から次へと虚が寄ってきて、青藍に近付くことが出来ない。
青藍の周りに虚が集まっていき、彼の姿まで見えなくなっていく。


「ラン!!!返事をしろ、ラン!!!」
迅は叫ぶが応えはない。
俺はまた、光を、失うのか・・・?


迅がそう思ったその時。
青藍のいる方から光が放たれる。
それと同時に青藍に群がっていた虚たちが消し飛ばされた。
中から光に包まれた青藍が出てきて、迅は目を瞠る。
その光を浴びた虚が次々と消えていき、迅の目の前に居たものも消滅していった。


その様子に、他の者たちも唖然と青藍を見る。
光に包まれた青藍は、刺されたときの体勢で宙に浮いている。
それから苦しむように胸元に手を当てて、地面に降りる。
しかし、青藍は着地と同時に膝から崩れ落ちた。


眩い光が霧散して、その場に静寂が満ちる。
『・・・ぐ、は、はぁ、はぁ・・・。』
青藍の荒い呼吸が聞こえて、迅は目が覚めたように青藍に駆け寄った。
「ラン!」


・・・しまった。
加護が働いてしまった。
駆け寄ってくる迅の姿を捉えながら、青藍は内心で呟く。
「大丈夫か、ラン!!」
迅はそう言って青藍の肩に手を置いた。


『・・・だ、だいじょう、ぶ、です。大したことでは、ありま、せん。すみま、せん。余計な、ものを、見せました・・・。』
また、皆に心配をかけてしまう。
今頃皆が顔を青褪めさせていることだろう。
この加護は連動するのだから。


霊妃様。
僕は、無事だと、伝えて、ください・・・。


青藍が放った光が消えると、虚が再び集まり始める。
恐らく、再び虚を呼び寄せたのだ。
痛みに動けない僕を、今、殺すために。
迅以外の者たちはその虚に気が付いて、青藍を気にしつつも虚へと向かっていく。
でも、僕が、死ぬわけには、いかないんだ。


(「青藍。」)
頭の中に直接聞こえてくるのは、霊妃の声である。
(「それ以上動くでないぞ。妾が守れるのは、妾が紋様を描いた心臓だけじゃ。血に紋様を描くことは出来ぬ故、出血死は救えぬぞ。」)
青藍は霊妃の言葉に内心で頷いてから、迅を見上げた。


『迅さん・・・。僕は、大丈夫、ですから、虚を。』
「だが、お前・・・。」
『大丈夫です。さっきの、出来事については、その内、お話します。今は、虚を殲滅することが、先です。』


苦しげに言われて、迅は逡巡する。
狙われているのは確実にランだ。
だが、守って戦える余裕はない。
次々と出てくる虚を見て、迅は内心で呟く。


どうする。
俺は、どうしたらいい。
その間にも虚が寄ってきて、迅はそれらを切り捨てる。
青藍をチラリとみると、まだ立ち上がるのは難しいようだった。
その胸から血が流れているのを見て、動揺する。


紅い、血。
理桜様も胸から血を流して、命を落とした・・・。
急激に体温が下がっていき、迅は動けなくなる。
その時、突如空間が開いて、何者かが姿を見せたのだった。


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