色彩
■ 1.素っ気ない書簡


青藍が遠征隊の真実を知って約半年が経過した。
・・・やはり、虚の数が増えている。
この半年間、青藍は虚と対峙しながら、虚の数を確認していた。


どうやって虚を集めているのかは知らないが、少しずつ、確実に虚の数が増えている。
大群が押し寄せてくることはないが、それでも、日に日に戦っている時間が長くなっているのだ。
その上、この六か月の間で、三回ほど毒を盛られた。
睦月の解毒薬がなければ危なかったことだろう。


・・・貴方方は、そんなに僕が邪魔か。
そんなに僕が恐ろしいか。
そんなに僕を殺したいか。
僕を殺すためならば、手段も厭わないのか。
僕を殺すために既に二人が犠牲になっているというのに。


恨みそうになる・・・。
恨んでしまっては、相手の思う壺なのに。
そう思いながら、青藍は隣で剣を振るっている迅をチラリとみる。
この人は、それを知りながら、今、ここに居るのだ。


こんな僻地で、たった一人で、その苦悩を誰にも見せずに、部隊内での殺し合いを見てきたのだ。
陵さんたちがそれを知れば、彼等を始末してしまう。
その結果、陵さんたちが始末される。
あちらは汚い仕事を任せている者を切り捨てることに躊躇いなどないのだから。


この人はそれを何とか阻止するために、一人で苦しみを背負って、何でもないように、此処に居るのだ。
そんなに僕らが憎いのか。
自分たちの方が化け物であると、何故気付かない。
青藍は奥歯を噛みしめて虚を切り捨てる。


此処から先が、長い。
これからが勝負なのだ。
この賭けに負けるわけにはいかないのだ。
こんなところで、命を落とすわけには。


僕は、帰らなければならないのだから。
早く深冬に会いたい。
彼女の元に帰りたい。
青藍はそう思いながら斬魄刀を握りしめたのだった。


その頃の瀞霊廷では。
「・・・私は彼奴らの首を落としてもいいか?」
「あはは。そうだねぇ。いい加減、僕も堪忍袋の緒が切れそうだよ。」
「ははは。俺は既に限界を超えているぞ。顔を見るだけで刀を抜きそうだ。」
咲夜、京楽、浮竹は、握り拳を作りながら、何とか笑みを浮かべて、そんな物騒なことを呟く。


「三人とも落ち着いてください。ここで騒げば兄様は戻りません。・・・父上。父上も抑えてくださいね。斬魄刀を持ってどこに行こうとしているのですか。それを置いて此処に座ってください。・・・当主代理の権限で命じます。」
無言で立ち上がった白哉に橙晴は声を掛ける。
橙晴に言われて、白哉は奥歯を噛みしめながら橙晴の隣に腰を下ろした。


「これは最初から想定の範囲内です。堪えてください。」
そんな五人の目の前にはある書簡が広げられていた。
今朝方、朽木邸に届けられた、四十六室からの書簡である。
橙晴はそれに目を通してため息と吐くと、彼等を集めてそれを見せたのである。


朽木家当主朽木青藍は、かの地で死亡した。
そんな素っ気ない文面が、素っ気ない紙に、これまた素っ気ない字で綴られている。
当然、霊妃を通じて青藍の無事が確認できているために、これが嘘であるのは確実だ。
こんな嘘の内容を送って来た意味は一つしかない。


死んだ者に関する嘆願はこれ以上受け入れない。
そういう意思表示である。
「ですが、こちらとしては良い知らせでもあります。彼らは、こちらが兄様と連絡をとる手段を持っていることを知らない、ということですから。まぁ、それは当然ですが。」


「だが、これでは、俺たちは動くことが出来ない。」
「あちらさんも、死んだ者のために動いてはくれないだろうしねぇ。青藍は生きていると証明することも出来なくはないけれど・・・。」
「こちらはその通信手段を彼奴らに教えることが出来ない。どうやって、と問われれば、沈黙することしか出来ないのだ。霊妃の存在を知らせるわけにはいかない。」


「気に入らぬな。」
「えぇ。気に入りません。」
五人はそう言って書簡を睨みつける。


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