色彩
■ 35.正体


「だが、睦月と師走が来ただろう。あの二人を見て、お前は違うと。それで、お前にああ言ったんだ。あの二人、本来は人の下に付くような奴じゃないだろう。」
『えぇ。あの二人にはあの二人の立場があります。』
「そんな二人が、四十六室の下になんか付くわけがない。」


『はい。あの二人、四十六室など敵ではありませんので。』
「それはそれで、どうかと思うが・・・。まぁ、いい。で、俺たちがお前を殺す気がないと判断して今日の件が起こされたんだろう。・・・嫌な仕組みだ。」
迅は吐き捨てるように言う。


『本当に。迅さんたちを遠ざけつつ、邪魔者は確実に始末する。邪魔者が始末できないなら、諸共虚に食わせてしまえばいい。こんな場所では、何の証拠も残らない。残っていても、此処は瀞霊廷から走って二週間。二週間もあれば、証拠の始末は幾らでも出来る。』
青藍はそう言ってため息を吐く。


『迅さん以外にこの仕組みに気付いている者は?』
「陵たちには、伝えていない。だが、あちら側は全員知っているはずだ。」
『そうですか。表面上は仲間として命を預け合って、裏では殺し合え、という訳ですか。・・・本当に気に入りませんね。向こう側を始末するのは簡単ですが、そうもいかないのが腹立たしい。』
そういう青藍の瞳には怒りが映っている。


「ここから先は、おそらく地獄だぞ。四十六室は本気でお前の命を狙っているらしいな。」
『えぇ。僕のせいで、母を殺し損ねましたからね。その上、僕に弱みを握られている。相手も余程僕のことが気に入らないのでしょう。』
「お前はどうする?行動を別にするか?」
その問いに青藍は首を横に振る。


『一緒に行きます。そうでなければ、僕は死んだことにされて、向こうの話が進まなくなってしまう。まぁ、そうされるのも時間の問題ではあるのですが。それでは、僕はなかなか帰ることが出来なくなります。・・・それだけは、出来ないのです。出来るだけ早く帰らなければ・・・。』
青藍は絞り出すように言った。


「・・・そろそろ、聞いてもいいか?」
『内容によります。』
「・・・お前の正体を。お前はこちらを知っているが、こちらはお前を知らなさすぎる。解っているのはお前がどこかの貴族の当主で、護廷隊から信用のある者、ということだけだ。署名がどうのこうのという話もしていたしな。」


『それについて否定はしません。』
「そしてどうやら四十六室にも伝手があるらしい。・・・お前は、誰だ?」
真剣に問われて、青藍は逡巡する。
しかし、迅の瞳を見て、話すことに決めたのだった。


『他の方に、お話することはないと、お約束頂けるのならば。』
青藍の雰囲気が厳しいものに変わり、迅は思わず背筋を伸ばした。
「約束しよう。」


『では、お教えいたします。・・・私は、朽木青藍。第二十九代朽木家当主にございます。』
「朽木、家の、当主・・・?」
迅は目を見開きながら唖然と呟く。


『はい。・・・それ故、睦月や師走程の者が配下に居ります。さらには、我が父朽木白哉は六番隊の隊長にございます。私自身ここへ来る前は六番隊で三席を務めておりました。その上、我が母は、朽木咲夜。・・・旧姓は、漣。我が母は浮竹、京楽両隊長と同期であり、彼等と同じく山本総隊長の元で研鑽を積んだ者。母は今、平の隊士ではありますが、元十番隊副隊長です。そんな彼らが動けば護廷隊を動かすことも可能でしょう。』
青藍が言い終えると、迅はしばらく沈黙した。


「では、漣副隊長の話が出たとき、不思議な縁だと言っていたのは・・・。あの人は、生きていた・・・。」
『えぇ。母は失踪後、百年の時を経て、護廷隊に復帰いたしました。死亡したと処理されていたのは、母を隠すための嘘にございます。復帰してから父と夫婦となり、そしてその後、私を生みました。』


「そうか・・・。漣家・・・。だから母親も元当主・・・。あの人が、お前の母か・・・。」
『はい。母を、ご存じのようですね。』
問われて迅は苦しげに目を瞑る。
そして目を開いた。
まじまじと青藍を見つめて、口を開く。


「その右目は漣副隊長のものか。顔もよく似ているな。何故気付かなかったのだろう。」
迅は泣きそうに言った。


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