色彩
■ 34.遠征隊の真実


それから約一年半。
青藍が遠征部隊に来て、二年と七か月ほどが経過した。
青藍は月明かりの下で、舞を舞っていた。
鎮魂の舞である。


突然押し寄せてきた虚の大群が、二人の隊員の命を散らせたのだ。
虚に貫かれて、悲鳴を上げて死んでいった二人に、青藍は此処へ来て初めて涙を流した。
迅、リク、陵、暦、ケンの五人はそんな青藍を見て、悲痛の表情を浮かべる。


しかし、その涙の美しさに目を離すことが出来なかった。
痛々しいその姿から目を逸らしたいのに、目を逸らすなとでも命じられているように、動くことが出来なかったのだ。


それから、涙を止めた青藍は舞を舞っているのである。
静かな川の傍で。
音もなく、何かを祈るように。
その姿を、生き残った面々はぼんやりと眺めているのだ。


青藍が彼らに舞を見せるのは初めてのことで、その舞を見て、彼等は青藍の心を知った気がした。
ひらりと袖を翻すと、悲しみが見えるようで、此処へ来てから切っていない長い髪が揺れれば、死んでいった者への慈しみが見える。
その虚ろな表情は、己は無力だと物語っていた。


舞いながら再び涙が流れて、月の光を反射する。
その姿が闇に溶け込んでしまいそうで、迅は小さく身震いをした。
そして徐に立ち上がると、舞い続ける青藍を止めたのだった。


『・・・迅、さん?』
腕を掴まれて、青藍は意識を取り戻す。
「もういい。やめてくれ。お前まで、そっちに行ってしまいそうだ。」
迅に言われて、青藍は首を傾げる。
涙を流していたことを除けば、その姿はいつも通りで、迅は自分の心配が不要なものだったと知る。


『それは・・・すみません。少し、意識が違う場所に行っていたようで。』
「いや、いい。・・・戻って来たな?」
『はい。彼らを見送っただけですから。』
「そうか。」


『ですが、迅さん。』
「何だ?」
『少し、話があります。二人で、話せますか?』
「・・・あぁ。付いて来い。」


迅に連れられてきたのは、今日の野営地が見下ろせる高台である。
二人は向き合ってそこに座り込んだ。
『・・・今日の虚、どう思いますか?』
その問いに、やはり彼は違和感に気付いていたか、と内心で呟く。


「お前も気付いたか。」
『えぇ。何かに釣られたように、一直線に僕らの元へやってきました。この近くには人の住む場所があります。でも、そちらには見向きもしなかった。あれだけの数が突然出現して、真っ直ぐにこちらを狙うのは、違和感としか言いようがありません。何か、理由があったとみる方が自然です。』
青藍はそこまで言って、少し考えるように間をとる。


『迅さん以外に、四十六室の者と連絡を取ることが出来る人が他に居ますね?』
確信を持っていわれて、迅は息を呑む。
『この部隊は、本当は、二つに分かれているのですね?一方が命令を無視すれば、もう一方が命令を実行する。どんな手を使っても。』


真っ直ぐに見つめられて、迅は奥歯を噛みしめる。
一番、そうなって欲しくはないことが、起こりはじめたのだ。
「・・・あぁ。そうだ。」
『では、もう一方が、僕を殺そうとしているのですね?』
問われて迅は重々しく頷く。


「恐らく、そういうことだろう。そして、四十六室の本命は、あちらだ。俺たちは元々彼奴らの信用がないからな。俺たちが力を得ることの無いように、俺たちが殺さなかった者たちは彼奴らが始末する。それに気が付いたのは、ここ数年だがな。」
迅は自嘲するようにいう。


「今日のあれは、たぶん、撒き餌だ。「向こう側」が俺たちの知らないところで撒いたのだろう。」
『やはり、そうですか。迅さんは、誰がどちらにいるか、ご存じで?』


「こっちは俺とケン、暦、陵、リク。この五人だな。それで、向こうが死んだ二人を含めて五人。彼奴らは別々に俺たちの後からやって来た。こちらに来る前から手を組んでいたのだろう。そして四十六室から派遣されてきた。・・・だから、俺は、始め、お前もそちら側なのだと思った。」


『なるほど。最初の短剣が結構本気だったのはそのせいですか。』
「まぁな。それに、どう見ても、お前は護廷隊から弾き出されるような奴じゃない。その上、自分は護廷隊に戻るとか、俺たちにも一緒に戻るか、とか、聞いてくるから、余計にそう思ったんだが。」


『信用されていないのはこちらも同じという訳ですね。』
青藍は苦笑する。


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