色彩
■ 33.老婆心


「問題はもう一方の刺客だな。気配が何とも言えない。何をするか解らないような・・・。ああいう感じは、自分の身を捨ててでも目的を達する。そういう奴らな気がした。」


「兄様は気付いていた?」
「いや、まだ気付いていないと思う。伝えてもよかったが、相手が動けば青藍なら自分でそれに辿り着くだろう。それまでは余計な心配をせずにいる方がいい。青藍も完全に警戒を解いたりはしていなかったし。」


「そうだね。どう考えても兄様の負担が一番大きい。一人で虚と刺客の両方を相手にしなければならないのだから。それでも兄様には生き抜いて貰わなければ。」
橙晴は祈るように言う。


「あぁ。せめて、相模迅が青藍の下に付いてくれるといいんだがな。そればかりは俺たちではどうすることも出来ない。相模迅には他に主があるからな。今の主ではない、すでに死んだ主が。死んだ者を主としている奴は、中々新しい主を作らない。まず、青藍が、あの男から信頼を得なければならないんだ。」
師走の言葉に橙晴は頷く。


「・・・早く迎えに行かないと。」
「そうだな。だが、お前はもう少し力を抜け。あまり焦るな。」
「うん。・・・少し疲れた。」
橙晴はそう言ってごろりと転がる。


「寝るか?」
「うん。半刻後に起こして。それまで、そこに居て。」
「解った。じゃあ俺は此処で仕事をしている。」
「うん・・・。」
橙晴は頷くとすぐに眠ったようだった。


「お疲れだな。そりゃそうか。此奴の肩には青藍の命が乗ってんだから。」
そんな橙晴を見て呟くと、師走は橙晴の机と筆を借りて報告書を書き始めたのだった。


その翌日。
「・・・は?変彩金緑石?」
技術開発局に来た睦月は、目を丸くする。


「あぁ。別名、アレキサンドライト。」
阿近に言われて手のひらサイズの石の割れ目を覗く。
小さなライトでそれが照らされると、紅い光が見えた。
「紅い・・・。日の下では青く光っていたんだが・・・。」


「だろうな。光の種類によって色が変わるものだが、これだけはっきりと赤と青に変化するのは珍しい。目視できるものの大きさはそれほどでもないが、その石の奥には、さらにアレキサンドライトがあるようだ。この石の割れ方から、もともとあった大きなものが割れて今の状態になった可能性が高い。つまり、奥の石も質の高いものであると考えられる。」


「・・・そうか。」
「ま、実際に割ってみなければ解らんが。」
「彼奴らみたいだな・・・。」
睦月は石を覗きながら呟きを漏らす。


「彼奴ら?・・・あぁ、青藍とあの銀色か。」
「・・・よし。この石は、深冬に渡してみるか。」
「何を考えてんだ、睦月?」
怪訝な顔をした阿近に、睦月は苦笑した。


「なんつーか、老婆心?・・・彼奴らの繋がりを、より強固なものにしたい、なんてな。これで、青藍の首輪の一つや二つを深冬に作らせようかと。」
「過保護かよ。しかも首輪かよ。」
「五月蝿い。あの馬鹿は首輪で充分だろ。・・・まぁいい。ありがとな、阿近。」
「後で酒でも奢れよ。」
「はは。時間が出来たらな。」


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