色彩
■ 32.報告

一週間後。
睦月と師走は朽木邸に辿り着いていた。
荷物を置くと休むことなく橙晴の元へと向かう。


「「失礼します。」」
橙晴の部屋の前でそう声を掛けると、橙晴の声が返って来る。
それを聞いて二人は部屋に入った。


「「ただいま帰りました、当主代理。」」
「うん。お帰り。早速だけど、報告を。睦月から。」
橙晴は書類に目を通しながら二人にそう促す。


「はい。まず、青藍様はご無事です。あちらでも上手く立ち回っているご様子。・・・包丁の扱いには成長がないようですが。」
「そう。それは良かった。包丁云々はどうでもいいから以後報告は省略していい。」
「畏まりました。」


「次に、青藍様への刺客の様子ですが。」
師走がそう言うと橙晴は書類から目を上げる。
「どんな様子だった?」
「相模迅の一派の方は青藍様を葬ることは諦めているようです。というより、青藍様の味方、といいますか。可愛がられているようでした。」


「さすが兄様だよね。・・・もう一方は?」
「まだ動いてはおりませんでした。今後、動きがあれば、青藍様からご報告があるやもしれません。」


「・・・そう。そちらが動く前に迎えに行ければいいのだけれど。」
「それが一番ではありますが、おそらく間に合いません。後は青藍様がご自身で切り抜けるしかないでしょう。」
そんな師走の言葉に橙晴はため息を吐く。


「・・・そうだね。兄様が信じてくれているのだから、僕らも兄様を信じよう。僕らは出来るだけ早く兄様をこちらに戻せるように力を尽くさなければ。」
「はい。引き続き尽力せよ、とのことです。そして、こちらが次期当主を立てることを許可した書状と、青藍様直筆の嘆願書にございます。こちらの書類も確認して頂きました。」


睦月はそう言って書類を取り出す。
橙晴はそれを受け取って眺めた。
「兄様の字だね。・・・すぐに次期当主が決定したと発表してきなさい。」
「了解しました。」
睦月は頷くとすぐに部屋から出て行く。


「ねぇ、師走。」
「何でしょうか?」
「いや、それはもういい。」


「そうか?」
言われて師走は言葉遣いを砕けさせる。
「うん。・・・兄様、どうだった?」
橙晴は不安げに師走を見る。


「元気そうだったぞ。髪が長くなっていた。彼奴は何処に居ても攫われるんだな。俺と睦月が行ったら、ちょうど攫われて所在不明になっていてな。自力で逃げられないのかと思って俺たちは胆が冷えたよ。ぴんぴんしている姿を見つけたときは殴りたくなったが。つか、睦月が二回ほどげんこつを落としたが。」


「わざと逃げなかったの?」
「あぁ。相模迅の一派が助けに来るかどうか賭けていたらしい。八日間ほど捕まっていたようだが、本人はけろりとしていた。健康状態も良好だ。」
「攫った相手はどうしたの?」


「俺たちであらかた伸した。一部の者から話を聞いた限りでは、あの辺には厄介な虚が居るらしい。青藍をそいつに差し出そうと捕まえたらしいんだが、あの顔だからな。差し出すのが惜しくなってどうしようか悩んでいたようだ。」
虚に差し出される青藍を想像したのか、橙晴は顔を顰める。


「悪趣味な虚が居るようだねぇ。しかしまぁ、あの顔が役に立っているのならいい。あの顔のせいで捕まったくせに、あの顔のお蔭で助かったわけだ。」
「そのようだな。まぁ、相模迅たちは青藍を助け出そうと動いていたから、そこそこ信用していいだろう。」


「どんな人だった、相模迅。」
「忠誠心が強いな、あれは。頭も悪くない。何が善で何が悪かを知っている。己の手が血で穢れていることも自覚している。あの場で数百年生き残っているという話だから、手練れでもあるんだろう。仲間にも慕われているようだった。青藍も懐いていた。」


「ふぅん?ナユラ殿の采配が上手く行っているならいい。あの兄様が懐いているのだからこちらはそんなに警戒しなくてもよさそうだね。」
橙晴は安心したように言う。


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