色彩
■ 30.他人の痛みを思う

「青藍。」
そう呼ばれて青藍が書物から顔を上げると、そこには咲夜が居た。
風呂上がりのようである。
『母上。・・・お風呂に入ったのですね。ちゃんと髪を乾かしてください。風邪を引いてしまいます。』


「青藍拭いて。青藍のせいで私は疲れた。」
咲夜はそう言って子供のように青藍の前に座った。
青藍は困ったように微笑んで咲夜からタオルを受け取り、髪を拭き始める。
『はいはい。それはすみませんでした。・・・父上は?』


「さあね。今頃風呂で溺れているのではないか。」
咲夜はそう言って膨れる。
『あはは。それは大変ですね。』
白哉が風呂で溺れるはずがないと解っている青藍は笑って言った。


「ルキアがこんなところで眠っているなんて珍しいな。」
『そうですね。お疲れなのでしょう。』
「確かに、最近任務が多かったからな。後で浮竹に私にも回すように言っておこう。」
『ふふ。母上もルキア姉さまが大切なのですね。』
「当たり前だ。ルキアは私の可愛い妹だぞ。青藍だってルキアのこと大好きなくせに。」


『そうですね。大切な家族ですから。それにルキア姉さまは可愛いので。』
青藍はニコリと笑って言った。
「ふふふ。そうだな。」
咲夜はそう言って微笑み、青藍の頬に手を伸ばした。


『母上?』
「いや、青藍は蒼純様によく似ているな、と。」
『お爺様に?』
「うん。君が笑うと蒼純様にそっくりだ。・・・安心する。」
咲夜は懐かしむような表情をする。


『お爺様はどんな方だったのですか?』
「いつも優しく微笑んでいた。私が我が儘を言うと困ったように微笑んで、でも私の我が儘を聞いてくれた。小さな私とずっと一緒に居てくれた。私は蒼純様が大好きだった。お体は弱かったが、銀嶺お爺様の副官として、しっかりと務めを果たしていた。」
『そうですか。』


「白哉の母上が亡くなってから、白哉のために時間を作ってよく一緒に稽古をしていたものだ。白哉はまだ小さかったから、遊びのような稽古だったけれど。優しい、人だった。私は、本当に、蒼純様が大好きだったのだ。愛していたよ。そして、蒼純様も私を愛してくれていた。白哉やお爺様を愛するのと同じように。」
そう言って咲夜は綺麗に微笑んだ。


『ふふ。父上が聞いたら嫉妬されてしまいますね。』
「そうかもな。秘密だぞ、青藍。」
『はい。解りました。』
二人はそう言ってくすくすと笑った。


「・・・ここに居たのか。」
二人で笑っていると、白哉が現れた。
『父上。』
「皆眠っているのだな。」
白哉はそう言って未だにすやすやと眠る三人にやさしいまなざしを向ける。
『はい。』


「・・・ふふふ。」
『母上?』
再び笑い出した咲夜に青藍は首を傾げた。
「いや、青藍も蒼純様によく似ているが、白哉も蒼純様に似ている。それが、面白くてな。」
『そうなのですか?』
「あぁ。蒼純様も私を見つけると、ここに居たのかって言っていたのだぞ。やはり親子だな。」


「・・・何か悪いか?」
白哉は拗ねたように言った。
「いや?何だか幸せだ。朽木家の中に私が居ることが。私はずっと朽木家の子になりたいと思っていたから。白哉が居て、お爺様が居て、蒼純様がいて。青藍や橙晴や茶羅が生まれて、ルキアが居て。私は今、本当に幸せなのだよ。」
咲夜はそう言って泣きそうに笑う。


『母上・・・。』
青藍もまた、泣きそうになった。
青藍は咲夜の話をすでに白哉から聞いているからだ。
漣の巫女として生まれてどれほど苦しんでいたのか。
[ prev / next ]
top
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -