色彩
■ 30.見てみたい


「・・・で、改めて聞くが、伝言は他にあるか?」
睦月に問われて、青藍は苦笑する。
多分、深冬への伝言が欲しいのだろう。
でも、深冬からの伝言はなかったのだ。
だから、僕も、何も言わないよ、深冬。
内心で呟いて、青藍は睦月を見る。


『うん。君たちが見た僕を、伝えてくれればそれでいい。』
「・・・そうか。まったく、似た者同士というか何というか。」
『いいんだよ、僕たちはそれで。・・・あ、そうだ。ねぇ、睦月。これ、何だか調べておいて。』


青藍は言いながら懐から何かを取り出すと、睦月に放り投げた。
それを難なく片手で受け取って、睦月はまじまじとそれを見つめる。
「・・・ただの石・・・じゃあ、ないな。奥に何かある。青・・・か?」
『うん。綺麗でしょ?』


「そうだな。・・・何処で見つけた?」
『僕が捕まっていた部屋の端っこに落ちてた。』
「人の家のもん拾ってくんなよ・・・。」
睦月は呆れ顔だ。


『埃をかぶって、可哀そうだったんだよ?』
「・・・埃をかぶっているからって、持って来ていいわけないだろ。それがまかり通るなら、世の中の泥棒の大半が無罪放免になるっつーの。」
『あはは。まぁ、この僕を捕まえて払った代償が石一つなのだから、安いもんでしょ。』


「ったく、しょうがない奴だな。調べといてやるよ。」
『うん。あ、でも、暇な時でいいからね?』
「今この状況で暇な時があると思ってんのか?」
『あはは。ないね。』


「だよな。ま、阿近にでも調べさせる。」
『よろしく。さて・・・睦月、師走。』
当主の顔で呼ばれて、二人は片膝をついて首を垂れる。


『引き続き、我が身を助けるために尽力せよ。・・・行け。』
「「は。」」
青藍の言葉に、睦月と師走は一礼して、姿を消したのだった。


「・・・あいつ等、手練れだな。足が速い。」
「俺たちより足が速いってどういうことだ・・・。」
「数百年、此処で腕を磨いたはずなんだが。」
「気配も静かだったけど、穏やかってわけでもないみたいだね。」
「ランにげんこつだもんなぁ。」


迅、暦、リク、陵、ケンの五人は消えた二人を見て、口々に呟く。
そして、彼らの向かった先を見つめている青藍をチラリとみる。
何かに耐えるように、全身を動かすまいと、微動だにしない。


この男ならば自分たちを振り切って帰ることなど簡単だろうに、それすらも出来ないほど、この男は縛られているのだ、と五人は思う。
一つため息を吐いて、迅は青藍の背を軽く叩いた。


『迅さん?』
青藍は驚いたように迅を見る。
「あまり力むな。動きが悪くなって命を落とすぞ。」


言われて青藍は大きく息をついた。
他人の言うことをよく聞く素直な奴だ。
肩から力が抜けたのを見て、迅は小さく笑う。


「それでいい。今はまだ、お前が誰かなど聞かないし、お前の事情も知らん。何か大きなものを背負っているというのは解ったがな。だが、一人で背負っているわけではないのだろう?」
『・・・はい。僕には仲間が居ます。僕のために奔走してくれる仲間たちが。』
青藍は真っ直ぐに言う。


羨ましい。
迅は内心で呟く。
それほどの仲間が、ランにはあるのだ。
距離など関係なく、命令というのでもなく、彼のために動く仲間が。


ランのために何かできる彼らが羨ましい。
そう思って迅は内心苦笑する。
俺は、ランのことが気になって仕方がないのだ。
彼自身のことも、彼の仲間のことも。


「・・・ラン。」
『なんですか?』
「保留にしていた答えだが。」
『・・・答えが、出ましたか?』


「あぁ。俺は、お前のいる場所を、お前の仲間を、見てみたい。」
言われて青藍は軽く目を見開く。



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