色彩
■ 27.思わぬ名前


「・・・よし。これで全部終わったな。」
「部隊長さんたち、こちらを見てもいいですよ。」
言われて迅たちは青藍を見る。
その表情はどうしたらいいのか解らないと言うような、複雑なものである。
話を聞く限り、ランはどこかの貴族の当主で、それも、並みの貴族ではない様子なのだ。


『ふふ。皆さん、これまで通りで結構ですよ。』
「だが・・・。」
『構いません。今の僕は、ランですから。』
「そうそう。これに気を使う必要はありませんよ。」
「使うだけ無駄です。それで、悪いんですが、一日、寝床を提供して頂けると。ここ一週間ほとんど寝ていないもんで。」


「それは、構わんが。だが、寝心地は悪いぞ。」
「構いませんよ。俺たち野宿が基本の場所で育っていますから。」
「そうだな。というより、今は横になれればどこでもすぐに眠れます。」
「そうか。それじゃ、野営地に戻ろう。他の者が待っているだろうから。」
『そうですね。』


「あ、ランの斬魄刀、見つけておいたよ。」
陵はそう言って青藍に斬魄刀を差し出す。
『ありがとうございます。よかった。売られていたらどうしようかと。』
「あはは。売られそうになってはいたけどね。」


『それは・・・危なかったですね。』
青藍は苦笑する。
「さて、戻るか。」
迅の言葉に皆が頷いて、彼等は野営地へ戻って行ったのだった。


翌日。
「・・・お前ら、本当に何者だよ。」
迅は呆れたように睦月と師走を見る。
昨晩ぐっすりと眠った二人は、朝から遠征隊の皆の健康診断をしているのである。
ついでに古傷まで綺麗にしてしまうために、彼等は信じられないと言った様子で二人が治療する様を観察する。


「何者かと聞かれても、医者、としか。」
「そうだな。本業は医者ですよ。・・・睦月。それ取ってくれ。」
「これか。」
「そうそう。」
「はいよ。」
睦月と師走は治療を施しながら答える。


「ねぇ、ラン。どういうことなの!?だって、俺のこの傷、かなり前に死にそうになった時のやつだよ!?」
陵は治療されながら青藍に問う。


『あはは。彼らの腕は、尸魂界一、といっても過言ではありませんよ。』
「まさか。四番隊の隊長には敵いません。」
「あぁ、そうだな・・・。治療以外でも敵う気がしないぞ、俺は・・・。」
師走は言いながら遠い目をする。


「四番隊の隊長って・・・卯ノ花隊長だろ?」
「そうですね。流石にご存じですか。」
「そりゃあ、俺たちだってもともと瀞霊廷に居たからな。古参の隊長は知っている。」


「知っていると言っても、名前くらいだけど。一般の隊士じゃ、自分の所の隊長副隊長ぐらいしか顔見ないし。・・・うちの副隊長は、美人だったなぁ。」
ケンは懐かしむように言う。
「ま、死んだって話だけどな。突然、うちの隊長が死んで、それで、副隊長も姿を消した。吃驚するほど美人だったんだよなぁ・・・。本当に死んだのかなぁ・・・。」


「・・・なぁ、睦月。」
ケンの話に師走は首を傾げる。
「何だ?」
「そんな話、どこかで聞かなかったか?」
「・・・そう言えば聞いたな。美人な副隊長が姿を消した話。」


「「お前、元何番隊だ!?」」
そんな二人の問いにケンは目を丸くした。
「へ?俺は、元十番隊・・・。」
ケンの言葉に睦月と師走は唖然とする。


「その副隊長の名前は・・・?」
「漣咲夜副隊長。」
その名前に言葉を失ったのは、睦月と師走だけではない。
青藍もまた、言葉が出ないようだった。


「お前ら、何年ここに居るんだよ・・・。」
一瞬の沈黙の後大きく息を吐いた睦月は、あり得ないと言った様子で彼らを見る。
「えーと、俺たち五人は漣副隊長がいなくなってから割とすぐに来たんだから・・・もう数百年ですかね。ね、迅さん。」


「そうだな。本当に、よく生きているよな、俺たち。」
『それ、僕が生まれる前からってことですよ・・・。』
「そうなのか?お前若いな。」
「いや、俺たちが年寄りなんだろ。」


「いやいや、年寄りっていうとなんとなく老けるからやめようぜ。」
「そうだね。俺たち、若いってことにしておいてよ。」
リク、暦、ケン、陵は口々に言う。


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