色彩
■ 26.良い心がけ


『他に何かあった?』
「母君のご友人方が毎日入れ代わり立ち代わり時間が出来る度に嘆願書を読むのでてんてこ舞いの彼らに面会を申し入れて、切々と訴えております。」
「それはもう、名演技なのですよ。涙をほろりと流す様はこちらの涙も誘うほどでして。流石、母君のご友人です。芸が多彩ですねぇ。」
その姿を想像して、青藍は苦笑する。


『それは、ちょっと、見てみたい。』
「録画されているので、帰られたら見ることが出来ますよ。」
『・・・あそこは撮影禁止だった気がするけれど。』
「あの中に協力者が居りますので。あちらがどんな様子か報告のために撮影を。」


『・・・なるほど。あの方も型破りということか。』
「まぁそうですね。見つかったとしても、我らに被害はありませんので、ご安心を。」
「それから・・・。」
『何か?』


「護廷十三隊の六千を超える隊士が、署名を。隊長副隊長席官を問わずに、自発的に、署名をしてくれたそうです。そちらは、ラン様や弟君のご友人方が、尽力してくださいました。時期を見て、「彼ら」に提出するつもりです。」
その言葉に、青藍は目を丸くする。


『六千を超える・・・?だって、それって、ほぼ全員だよ・・・?』
「遠征隊は入って居りませんので全員とはいきませんでしたが、多くの者がラン様に戻ってきて欲しいと、署名いたしました。その他、霊術院の生徒や貴族の方々からも署名が集まっております。」


「そして、お月見みたいな名前の糞爺とお菓子で出来た糞爺も陰で動いてくださっておりますよ。権力で抑えつけるのではなく、「彼ら」が自分からラン様の帰還を望むように網を張り巡らせてくださっています。流石、糞爺なだけありまして、その辺の手腕は我々の数段上を行きます。あの二人、格が違いますね。」


『・・・そう。』
筆を走らせながら、頷いて、青藍は沈黙する。
「・・・皆が、お帰りをお待ちしております。」
「どうか、今しばらく、お待ちくださいませ。」
睦月と師走はそう言って青藍に軽く頭を下げる。


『うん。ありがとう。皆にもよろしくと伝えておいてくれ。』
「畏まりました。」
『書き終わった。これでいいかな?』
「おや、相変わらずお綺麗な字で。」
『我が父の教育の賜物だよ。』


「なるほど。・・・そうでした。その父君から伝言にございます。」
『父上?』
「えぇ。」
『なんて?』


「・・・ラン様の暁が私に懐いて仕方がない、と。」
その言葉に青藍は動きを止める。
『それは・・・心穏やかじゃ、ないね・・・。』
「まだまだ、父君の方が上手ですねぇ。」
「そのようですねぇ。お返事はどうします、ラン様?」


『・・・必ず帰る。それ以上懐かせたら母上を取り上げます、と。』
「了解いたしました。そのようにお伝えしておきます。」
師走は楽しげに言う。


「それから、駄菓子屋に、頼まれていたものを届けてくれ、と言われたのですが。」
睦月はそう言って瓶を取り出す。
その中には黒い球がびっちりと入っていた。


『あぁ、出発に間に合わなかったみたいでね。まぁ、届いてよかった。』
「それは、そんなに必要なもので?」
『備えあれば憂いなし?』
「それ、持ち歩くんですか?結構量ありますけど。」


『ふふふ。ほら、私の袖は、大きいからねぇ。』
「「なるほど。」」
「それで、こっちは俺たちからです。大事にお使いになってください。」
師走が差し出したものを見て、青藍は遠い目をする。
いつかの塗り薬と飲み薬だ。


「お怪我をしたら、遠慮なく、これを塗りこんでくださいませ。」
「当然、こちらを飲んでいただいてから、ですよ?順番を間違えますと、塗り薬を塗りこんだときに痛みで死にます。」
二人はにっこりという。


『・・・うん。それを使うことの無いように、無茶は控えるよ。』
「それは良い心がけでございます。」
「ラン様の口からそんな言葉が出るようになるとは。あれは無駄ではなかったようですねぇ。何よりです。ですが、何かあったら、必ず、お使いください。迷わず薬を飲んで、迷わず薬を塗りこんでください。苦いとか痛いとか言っている場合ではありませんから。いいですね?」


『はい・・・。』
素晴らしい笑顔で言われて、青藍は顔を引き攣らせながら頷く。


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