色彩
■ 22.軟禁状態


一方、青藍はというと。
・・・何故、僕は、こんなところでも、攫われているのだろう。
食料の調達にやって来た、村ともいえぬ場所で、青藍たちは突如囲まれた。


自分一人なら簡単に逃げることが出来たのだが、隊員の一人が逃げ遅れたのである。
それを助けようと青藍が飛び込んだ拍子に、外套のフードが取れて、青藍の顔を顕わにした。
それを見た者たちは、逃げ遅れた隊員を投げ捨てて、あっという間に青藍を捕えたのだ。


『逃げようと思えば、簡単だけれど・・・。』
残念ながら青藍の荷物は野営場所に残った迅の元におかれている。
持ってきたのは斬魄刀だけで、その斬魄刀も当然ながら手元にない。
素手だけでも勝てる相手だろう。


でも、流魂街・・・と言っていいのかは疑問だけれど、死神が民を脅かすのは、たぶん、ダメだよね・・・?
そう思って青藍は大人しくしているのだった。


気配を探ったところ、ずっと扉の外に居るのが一人。
食事を運んでくる者が一人。
話し声から他に三人。
遠くの霊圧から、さらに二人いることが分かる。


捕まって三日。
始めは命の危機を危惧したものの、青藍はただ部屋に閉じ込められていた。
恐らく、どこかに売るにも、運ぶのが大変なのだ。
こんな僻地に人が住んでいるとは思わなかった・・・。


小さな窓から見える景色は、やせた土地で、木も乏しい。
乾燥していて、水の気配が遠い。
ただただ平らで、地平線が見える。
『流魂街の外は、こんなに広いんだなぁ。』
青藍は小さく呟いて、ごろりと転がる。


両手は拘束されているが、只の縄である。
切ろうと思えばいつでも切ることが出来た。
霊圧だって封じられていない。
それでも、青藍が動かないのには、理由があった。


荷物を持っているのが迅たちであることや、斬魄刀の在り処が解らないことも理由の一つではあるが、青藍には他に目的がある。
・・・迅さんたちは、僕を助けに来るだろうか。
この一年ほど、僕は彼らと上手くやっているつもりだ。


しかし、彼等は元々僕を殺せと命じられている。
それでも彼らはこれまで僕を殺さなかった。
でも、居なくなったら居なくなったで、厄介者が消えるのだ。
要するに、青藍は、彼らが助けに来てくれるのか、試しているのだった。


・・・我ながら、疑り深い奴だなぁ。
青藍は内心で苦笑する。
そう思いながらも、青藍はわざと霊圧を遮断する外套を着たままにしていた。
これもまた、彼等を試しているのだ。
霊圧を頼りにせずに、僕の居場所を見つけることが出来るかどうか。
それが出来た上で、僕を助けに来るほど、僕を信頼しているかどうか。


ついでに、自分の体の休息のために。
眠るくらいしかやることがなく、食事は一応三食運ばれてくる。
毎日体を拭かせてもらうことも出来る。
恐らく厚待遇であろうそれの裏に何があるのかは疑問だが。


ごろごろと転がっていると、目の前に掌ほどの石が見える。
今まで気付かなかったが、部屋の隅にずっとあったらしいそれは、埃を被っていた。
暇つぶしにひっくり返して見てみると、その石ころは中心に割れ目があってその奥に何かが挟まっているらしい。


なんとなくそれが気になった青藍は、石を持って部屋の中心に移動する。
埃を払って日の光に当ててみれば、奥にある何かが、ちか、と青く光った。
『鉱石、いや、宝石かな?・・・よく解らないけど、綺麗だ。』
言いながら、青藍は安心する。


・・・僕は、まだ、何かを綺麗だと思える。
そして、僕の世界には、まだ、色が残っている。
母の記憶を見た青藍の心の中には、己もまた、感情を失い、色彩を失うのではないかという恐怖がずっとあるのだった。


・・・でも、まだ、大丈夫。
青藍はそれを教えてくれた石ころに小さく笑って、暫くそれを眺めていた。



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