色彩
■ 21.桜の木


それから一年があっという間に過ぎる。
深冬は流魂街に来ていた。
母が居た場所に植えた桜を見に来たのである。
若木が背を伸ばし、枝を太くさせていることに、深冬は小さく微笑む。


この一年、深冬は泣いていない。
いや、正確には、泣いている暇もないのだ。
お蔭で、青藍がそばに居ないことにも慣れてしまった。
ただ、ふとした瞬間に、青藍がそばに居るような気がして、でも、そばには居なくて。
それが、寂しさを募らせた。


声を聞きたい。
姿を見たい。
あの温もりに触れたい。
毎日、布団に入るとき、そう思う。


「・・・母様。どうか、青藍を守ってください。青藍が帰って来るように、皆が、力を尽くしています。父様は、何も言わないけれど、きっと、父様も何かしら協力しているのでしょう。父様のことも応援してあげてください。」
小さく呟いて、手を合わせる。


青藍。
早く、帰って来い。
内心で呟いて、深冬は空を見上げる。


晴れ渡る空の色は、間違いなく青藍の瞳の色で、彼の瞳が恋しくなった。
瞬きをして、深呼吸をして、ジワリと溢れてきそうな涙を抑える。
そして、桜を見て、もう一度瞬きをして、その桜に一礼する。


「母様。私は、待ちます。母様が、時々しか会えない父様を待っていたように、私も、青藍を待ちます。・・・また来ます、母様。」
そう言って去っていく深冬の瞳は真っ直ぐ前を向いていたのだった。


その頃、白哉と橙晴は頭を悩ませていた。
ある上級貴族の当主引き継ぎの儀があるのだ。
当主引き継ぎの儀に参加できるのは、当主又は次期当主のみ。
今、朽木家の当主は呼べる状況ではないし、次期当主も存在しない。
しかし、相手は上級貴族である。
朽木家から人を出さないわけにはいかないのだ。


とりあえず橙晴を次期当主とすることに決めたのだが、現当主が存在する場合、次期当主を立てるには、現当主の許可が必要なのである。
白哉も銀嶺も、元当主ではあるが、彼等にはすでにその権限がないのだった。
橙晴は当主代理であって、当主ではない。


「・・・やはり、一度、兄様の所に行ってもらうしかありませんね。」
「そうだな・・・。」
二人はそう言ってため息を吐く。


「青藍には少々酷だが、今、掟破りは望ましくない。」
「えぇ。今、朽木家は四十六室に監視されています。掟を無視すれば、それだけ兄様の帰りが遅くなる。」
「あぁ。それだけは、避けたい。」


「・・・兄様は、大丈夫でしょうか。遠征部隊には四十六室の手の者が居るようですが。」
「霊妃を通じての報告は定期的に行われている。青藍を信じるほかあるまい。」
白哉は祈るように言う。


「・・・そうですね。行かせるのは、睦月と師走が良いでしょう。」
「それでいい。すぐに向かわせろ。」
「はい。」


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