色彩
■ 19.追いかけっこ


その頃、師走は駆け回っていた。
いや、ある人物と二日間、ひたすら追いかけっこをしているのである。
「・・・あぁ、もう!!!婆さんと遊んでる場合じゃねぇんだよ!!!」
師走が息を切らせながら言う。


「知るか!!儂の知るところではないわ!!儂が必要なら捕まえてみろ!!!」
「だから、追いかけてんだろうが!!何で、年寄りの癖に、そんなに速いんだよ!!!」
「年寄りを馬鹿にするなよ、師走!!これでも儂は元睦月だぞ!!」


「「元」だろ!!今は四季婆さんだろうが!!つか、早く睦月と弥生の婚約を解消しろ!」
「それがものを頼む態度か!誰のお蔭でお前が師走だと思っている!!」


「五月蝿い!!俺は別に順番なんかいらないって言っただろ!勝手に押し込めやがったくせに!!・・・あ!!こら!!!都合が悪いからって逃げてんじゃねぇ!!糞婆!!!」
師走の叫びも空しく、四季は闇の中に消えていく。


「・・・はぁ、くそ。婆さんが必要なんだよ!!!青藍を、彼奴を、俺たちの主を、瀞霊廷に、連れ戻すんだよ!!手を貸してくれ!!婆さん!!・・・頼むよ。せめて、せめて橙晴の話を聞くだけでも・・・。」
師走は息を切らせて、立ち止まる。


「お願いします、四季お婆様。俺や、睦月に、手を貸してください!青藍は、俺を、拾い上げてくれたんだ!睦月も青藍が、大切で、弥生だって、青藍を信頼しているんだよ!朽木家が、俺たちを、受け入れて、守ってくれてんだ!俺たちの大切な居場所なんだよ。それで、そこには、青藍も居なくちゃ駄目なんだ・・・。だから、お願いします!!」


師走はそう言って闇に向けて頭を下げる。
暫くの沈黙の後、師走の前に影が降りてきた。
「・・・そんなに大切なのじゃな?」
「はい。」


「そんなに、あの愛し子を助けたいか。」
「はい。彼奴は、容赦なく俺たちを使うし、たまに、頭おかしいんじゃないかって、思う。でも、彼奴は、誰よりも優しくて、何時だって、前を見て、俺たちに笑いかけてくれるんだ。それが、俺たちを、どれだけ助けたか・・・。」
師走は泣きそうになりながら言う。


「・・・あれを助けるには、険しい道が待っているぞ。力を尽くしても助かるとは限らぬ。」
「そんなの知った上でこうやって駆けずり回ってんだ。俺だけじゃなく、皆が。彼奴が戻ってくることを信じて。」


「・・・そうか。そんな場所を、見つけたか・・・。では、仕方ないのう。・・・橙晴とやらに会うだけ会ってやる。但し、二人でだ。橙晴とやら以外の者の話は聞かぬ。よいな?」
「それでいい。頼む。」
「解った。三日後、朽木家を訪ねる。時間を空けておけと、伝えるのじゃ。」


三日後。
四季は朽木家を訪れた。
睦月が彼女を出迎えて、橙晴の元へと案内する。


「・・・本日は、足をお運びいただき、大変感謝いたします。私が、朽木家当主代理、朽木橙晴と申します。お初にお目にかかります、草薙四季様。」
橙晴がそう言うと、四季はその姿をまじまじと見つめた。


賢そうな顔。
強い瞳。
多数を率いる自覚を持ち、己の身の重さを知る。
手段を選ばぬ冷酷さを持ち、他人を助ける慈悲を持つ。


その姿を一目見て、四季は内心苦笑する。
青藍よりよっぽど当主らしい。
此方はあの父によく似ている。


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