色彩
■ 17.愛される者


「何故、化け物なのか、聞いても?」
『・・・僕が、愛される者だからです。』
「愛される者?」
迅は首を傾げる。
『えぇ。愛される者です。』
「愛される者がこんなところに?」


『はい。愛されるからこそ、こんなところに居るのですよ。・・・無条件で愛されるのだから苦しめ、というところでしょうか。』
そう言った青藍の体に、鎖が巻き付いているのが見えたような気がして、迅は二、三瞬きをする。
しかし、当然のことながらその体には鎖などない。


「それは、愛情の押し付けじゃないか?その愛はお前が欲したわけじゃないんだろ?」
『まぁ、そうですね。世の理、というやつです。』
「世の理・・・嫌いな言葉だ。そう口にする奴はただの阿呆か本当に諦めた奴だからな。」


『ふふ。僕はどちらに見えますか?』
問われて迅は考える。
前者ではない。
かといって後者でもなさそうだ。
この地から瀞霊廷に戻ることが出来ると思っているのだから。
それだけの自信と信頼が瀞霊廷にあるのだろう。


「・・・どちらでもないな。」
『なるほど。やはり貴方は鋭いですね。僕が帰ることになったら、此処から引き抜いて差し上げましょう。』
青藍の言葉に、迅は目を丸くする。


「な、にを、言って・・・。」
『貴方はこんなところで人殺しをするには勿体ない、ということです。』
真っ直ぐに見つめられて、迅はたじろぐ。


「・・・俺は、お前が思うより穢れている。」
『僕だって、貴方が思うほど綺麗ではありませんよ。この身はいくつもの血で穢れていますからね。』
そう言って笑った青藍に、迅は背筋を震わせる。


『ふふ。僕が化け物に見えますか?』
「・・・あぁ。お前は一体、何者だ?」
『友人に言わせると、竜巻、迷惑、邪魔、阿呆、馬鹿、へたれ、天職は詐欺師・・・だそうです。あぁ、おねだりは上手なのに甘えるのが下手くそ、とも言われたことがあります。』
青藍は楽しげに言う。


「何で笑ってんだよ。ぼろくそ言われてんじゃねぇか。」
そんな青藍に迅は呆れ顔だ。
『ふは。皆、容赦ないんですよねぇ。いつも無茶をして心配をかけているので、仕方ないのですが。今だって心配をかけている。』


「・・・仲間が居るのか。」
『はい。彼らは、今、僕に文句を言いながらも、僕のために奔走していることでしょう。だから、僕は仲間の元へ帰らねばなりません。こんな僻地で野たれ死にするわけにはいかないのです。僕の命はそんなに安くありません。僕が背負っているものは、そんなに軽くはない。』


凛としたその声が、耳に心地いいのは、何故なのだろう。
その言葉と共に光が見えた気がして、迅は疲れたようにしゃがみこむ。
今更、光を見るとは。
こんなに眩しい光が、まだあったとは。


『どうかしましたか?』
青藍は目を丸くして迅を見る。
「・・・お前、俺のことを知っていると言ったな?」
しゃがみこんで顔を俯けたまま、迅は問う。
『はい。』


「どこまで知っている?」
『全て、でしょうね。』
「すべて知った上で、お前は、俺を、引き抜くと、言っているのか?」
『えぇ。己の主に刃を向けて、貴方は此処に飛ばされた。その上、今も、主に囚われている。主が息子の代になっても、貴方は、ここに居る。ここにしか、居場所がない。』


「俺のしたことは、間違いだったと思うか・・・?」
『いいえ。貴方がやらなくても、誰かが、そうしていたでしょう。事実、貴方の二人目の主は殺された。尸魂界に刃を向けた死神によって。流石に、貴方方の耳にも入っているはずです。主が変わったのですから。』
青藍の言葉に、迅は思わず顔を上げる。


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