色彩
■ 15.腹ごしらえ


この細い体のどこにその膂力があるのだ・・・。
この辺の虚は、共食いをする奴らが多いから、その辺の虚とは違うんだぞ・・・。
先ほどの青藍に戦慄を覚えたのは迅だけではない。
他の隊員たちは、先ほどから遠巻きに青藍を見ている。


恐らくは、それを狙ってわざと実力を見せたのだ。
この場所で生き残るためには、強い奴のそばに居た方がいいのは明白だ。
そこまで考えて、さらに包丁を使おうとしている青藍の手を止める。


『なんですか?』
不思議そうに問われて、迅はため息を吐く。
「それ以上包丁を入れれば、この魚の身が無くなる。・・・お前は、包丁を使うな。料理はこっちに任せろ。毒なんか入れやしねぇから。」


『・・・。』
青藍はそう言った迅をじっと見つめる。
『・・・解りました。』
そして不満げに包丁を置いたのだった。


『・・・あれ、意外と美味しい。』
出来上がった料理を一口食べて、青藍はそんなことを言う。
「お前、喧嘩売ってんのか?」
そんな青藍に、迅は青筋を立てながら問う。
『あ、いえ。・・・それにしても、本当に毒を入れないとは、思いませんでした。』


「入れないって、言っただろうが。大体、お前、ずっと俺が作るの見てただろ。」
『あはは。そうですね。いやぁ、本当に酷い相手は、相手の目の前で毒を盛るものですから、ちょっと、警戒しました。』
笑いながら言う青藍に、迅は動きを止める。


「・・・いや、待て。お前、そんな経験もあるのか?」
『はい。薬を盛られるのも日常茶飯事でした。盛られるならともかく薬品を投げつけられるのは困りますよねぇ。塀が溶けたりするんですよ?』
「お前は瀞霊廷から来たんだよな・・・?」
『えぇ。瀞霊廷から来ましたよ。』


「じゃあそれは、瀞霊廷内での話か?」
『そうですが?』
けろりと言われて、迅は頭を抱える。


どういう奴なんだよ、こいつは!!
本当に面倒な奴か!!
内心で叫びながらも、迅は青藍を見る。
見られていることに気が付いた青藍は、へらり、と笑うだけである。


「・・・はぁ。やめだ、やめ。」
迅はそんな青藍を見て、疲れたように言う。
『へ?何がです?』


「お前を殺すのは思った以上に難しそうだ。残念ながら虚と対峙しながらお前を殺すことは出来ないな。それだけの余力が俺たちにはない。」
『ふぅん?それで?どうするんです?』


「どうもしない。お前と一緒に虚を斬るだけだ。自分の命は惜しいからな。・・・お前らもそれでいいな?地下に潜っているだけの奴らのために死ぬことはないだろう?」
迅の問いに、周りの者たちは頷く。
どうやら先ほどからの青藍を見て、すでにその考えに至っていたらしい。


『それは、四十六室からの命に背くということですか?』
「あぁ。背いたところで大したことにはならんよ。こちらから出向かなきゃ、彼奴らと顔を合わせることもない。物資何て元々あってないようなもんだしな。」


『へぇ。そういうものですか。』
青藍は興味なさげに箸を進める。
「いや、お前のことだぞ?」
『僕を始末したい人なんて幾らでも居ますからね。その内の十人が僕を殺すことをやめたって大して変わりはありませんよ。』


「お前、何もしてないって、嘘だろ・・・。」
『それは本当です。四十六室に刃向うようなことはしていませんよ。・・・ちょっと、痛い目を見て頂いたことはありますが。』
そう言った青藍に、迅は、だからお前は何者なんだ、と思わずにはいられないのだった。


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