色彩
■ 11.今日だけの涙


「おはようございます、青藍様。」
縁を歩いていると、すぐに佐奈がやってくる。
『おはよう、佐奈。・・・それは?』
佐奈が手にしている真新しい死覇装が入っている箱を見て、青藍は首を傾げる。


「浦原喜助様からの贈り物にございます。文が添えられておりました。」
佐奈はそう言って文を青藍に差し出す。
そこにはその死覇装の生地は汚れにくく、破れにくい素材でできていること、それから、頼まれていたものは間に合いそうにないため、お詫びとして霊圧を遮断する外套を持って行けということが喜助の直筆で書かれていた。


『あれがないのは残念だけれど、霊圧を遮断する外套を使えるというのは、心強いね。喜助さんに、お礼をしておいて。』
青藍は小さく笑って、佐奈にそう言った。
「畏まりました。すぐにお着替えなさいますか?」
『うん。』


「では、そちらのお部屋に。」
佐奈に言われて、近くの空き部屋に入り、死覇装を身に着ける。
死覇装の下から黒い手甲と、帯、足袋、薬袋まで出てきて、青藍は笑う。
着替え終わると、佐奈が耳飾りを持ってやってくる。
その耳飾りを付けて、手甲も付けた。


『どう?』
全てを身に着けて、青藍は佐奈に見せる。
「はい。凛々しいお姿にございます。」
『そっか。・・・皆は?』
佐奈の答えに嬉しげに笑って、青藍は問う。


「まだ、お休み中にございます。・・・本当に、よろしいのですか?」
問われて青藍は内心苦笑した。
何も言わずに出て行こうとしていることを、見抜かれているのだ。


『うん。顔を見たら、離れ難くなってしまうから。皆に責められたら、ごめんね、佐奈。』
「いえ。それが佐奈のお役目ならば、謹んでお受けいたします。」
『ありがとう。苦労をかけるね。』


笑っている青藍に、行かないで欲しいと、そんな言葉が喉まで出かかる。
佐奈はそれを必死に抑えて、青藍の朝餉を用意する。
青藍はそれを黙々と食べた。


静かな、いつも通りの、朝。
しかし、この朝は、いつも通りではないのだ。
今日、邸を出て行けば、戻れるかどうかも、解らないのだから。
食事を終えて、出かける準備を進める青藍に、佐奈は何も言わずに用意をした。
外套を羽織らせて、荷物を持って門まで送る。


『ここで良い。ありがと、佐奈。』
門の前まで来ると、青藍はそう言って佐奈から荷物を受け取って背負う。
『皆を、頼むよ。』
「はい。・・・行ってらっしゃいませ、青藍様。お帰りをお待ちしております。」


『うん。行ってくる。』
深々と頭を下げた佐奈に微笑んで、青藍は門から出て行く。
その姿が見えなくなるまで見送っても、青藍は一度も振り返らなかった。


・・・行ってしまった。
何も言わずに、別れも告げずに。
その様子を影から見ていた深冬は、追いかけそうになる体を抑えながら、青藍が歩いて行った方を見つめる。


「・・ふ、う・・・。」
はらはらと涙が流れ落ちて、深冬はその場に蹲る。
堰を切ったように涙が溢れて、いつもなら、この身を抱きしめ、涙を拭う者があるのに、それがなくなったことに気が付いて、さらに涙が溢れる。


泣くのは、今日だけにするから。
どうか、青藍が、泣きませんように。
戻ってくるまで、私は、泣かないから。
深冬はそれから暫く一人で泣いたのだった。


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