色彩
■ 9.秘密の吐露


「・・・馬鹿な奴。」
豪紀は小さく呟く。
『知ってる。』
返事が返ってきて小さく笑った。


「泣いてもいいぞ。」
『えぇ?どうして?』
「寂しいんだろ。」
『寂しいねぇ。』


「苦しいんだろ。」
『まぁ、呼吸を忘れそうになるくらいには。』
「重症じゃねぇか。・・・でも、深冬の前じゃ泣かないだろ、お前。今は特に。」
『あはは。そんなことないよ?』
そう笑いながら言った青藍の瞳から、ぽろりと涙が零れ落ちる。


『あれ?』
一粒落ちると、次から次へと涙が落ちてくる。
『僕、どうして泣いているんだろう。泣かないって、決めたのに。ふふ。へんなの。』
そう言って青藍は笑いながら涙を拭う。
しかし、涙は止まらない。
その姿に、豪紀は顔を歪めた。


「・・・無理に笑ってんなよ。」
『無理何て・・・。』
「してるだろ。泣いてんだろうが。本当に馬鹿な奴だな。」
豪紀は言いながら乱暴に青藍の頭を撫でる。
『・・・は、寂しい、なぁ。どうして、僕は、愛し子なんだろう。』
涙を零しながら、青藍は呟く。


『何故、こんなにも、苦しいことばかり、なんだろう。何故、僕は、こんなにも、皆と違うのだろう。僕が欲しいのは、普通の、幸せなのに。・・・皆が色んな期待を込めて、子どもの予定はあるのか、と聞いてくるのが、ずっと、辛いんだ。愛する人との子どもならば、欲しいに決まってるのにね。』
その言葉に豪紀は息を呑んだ。


「まさか、お前・・・。」
『・・・いつか、こうなることが解っていたから。僕にもしものことがあった時、深冬が、僕を忘れられるように。それに、僕が居なくなった未来を考えると、その子どもはきっと、幸せにはなれないだろうから。それが、怖くて。だからずっと、薬で、僕の体をコントロールしている。・・・子どもが、出来ないように。』


「深冬は、それを知っているのか・・・?」
『・・・知らない。言えるわけが、ない。何度も何度も言おうと思った、けど、言えなかった。』


苦しくて、苦しくて、どうしようもないのだ。
震える声も、震える肩も、全てが苦しいと叫んでいるようだった。
その苦しみを想像するだけで、豪紀は息苦しくなる。
そして、普段の青藍ならばこんな話は絶対にしないであろうことに気付いて、今の彼がそれだけ追い詰められている状態であることを悟った。


『・・・最低だよね。深冬の傍に、居るって、決めたのに。やっぱり、僕が、一番、深冬を傷付ける。だから、せめて、あの子の前では、泣かないようにって。僕が泣いたら、深冬も泣くだろうから。あの子が、笑って送り出してくれるように、泣かないって、決めたのに。』


この男は、こんな風に泣くのか。
ボロボロと涙を零し始めた青藍に、豪紀は内心で呟く。
確かに、こんなお前を見たら、深冬も泣くだろう。
こんな痛々しい姿を見せられたら、泣かずにはいられないだろう。
子どもの件については、きっと、泣きながら怒るだろうが。


『どうして僕なのかと、霊妃様に、聞いても、答えて、くれなかった。それなのに、愛し子というのは本当なのかと聞いたら、すぐに肯定の意が返ってくる。・・・この定めの、何処が愛し子なのだろう。こんなに苦しんで、それを見た、周りの人も苦しめて、それが、一番辛いのに。せめて、本当に苦しむのが、僕一人なら、良かった・・・。』


切実な願いに、豪紀も泣きそうになる。
だが、この男の前では泣くまいと、涙が零れることの無いように、空を見上げる。
雲一つない青空が広がっていて、隣の男がこんなに苦しんでも、世界は晴れ渡っているのだと、やるせなくなる。
それでも豪紀は、青藍が泣き止み、帰っていくまで、涙を見せることはしなかった。


[ prev / next ]
top
×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -