色彩
■ 8.他人事


さらに翌日。
「・・・橙晴、この男、ちょっと借りるぞ。」
六番隊の執務室にやってきた豪紀は、そう言って青藍の腕を取る。
「えぇ。どうぞ。そこに居られると人が寄ってきて邪魔なので。」
『え、橙晴、酷い。僕を邪魔者扱い?』
「豪紀さん、お好きにしてください。」


「そうか。じゃあ、借りていくぞ。・・・ほら、立て。行くぞ。」
豪紀はそう言って青藍の腕を引っ張って執務室を出て行く。
暫く無言で歩いて、いつか、豪紀が青藍に深冬のことを頼んだ草原に足を運ぶ。
その中心まで来てから、漸く青藍の腕を離した。


そして、何も言わずに座り込む。
青藍も豪紀の隣に座りこんだ。
それから暫く沈黙が降りる。


『・・・何も、言わないの?』
罵倒が来ると思っていた青藍は、呟くように言う。
「言いたいことは山ほどあるが、言ったところで、お前の意思は変わらないんだろ。」
『うん。僕は、行くよ。』


「それなら、言うだけ無駄だ。・・・お前を追い詰めることはしたくない。」
豪紀は静かに、だが、悔しげに言う。
『あはは。優しいねぇ、豪紀は。正直、皆に引きとめられて、覚悟が揺らぎそうで、きついなぁ、と、思い始めていたところだったんだ。』


「そうだろうな。うちの隊長までお前の所に行ったと聞いて驚いた。」
『うん。真子さん、はっきりは言わなかったけど、行くな、って。』
青藍は言いながら目を伏せる。
「でも、行くんだろ?」
『行くよ。』


「・・・そうか。深冬とはちゃんと話したんだろうな?」
『うん。そう言うこともあるかもしれないという話は、前からしていた。それで、そうなっても、僕を待っていると言ってくれた。だから、行くと言ったら、そうか、って頷いただけだった。それからは、いつも通り。何も聞かないでくれている。ただ、そばに居る。』


「彼奴は、待つと言ったら待つぞ。そういう奴だ。」
『解っているさ。だから、必ず戻る。』
「あぁ。そうしてやってくれ。俺も、力を尽くしてみよう。慶一殿も力を貸してくれるそうだ。そしてもちろん、漣家もな。他にも、各方面に話をつけるつもりだ。」
『ふふ。根回しが早いねぇ。』


「お前ほどじゃない。・・・前々から解っていたのか?」
『まぁね。いつか、こんなことになるとは、思っていたよ。ナユラ殿と連絡を取って、何とか抑えてもらっていたのだけれど。四十六室を変えるのは、やっぱり難しいなぁ。』
青藍はそう言って苦笑する。


「恐怖というのは、強い感情だからな。そう簡単には、変わらんだろ。」
『そうだね。気長に待つよ。だから、よろしくね。』
「あぁ。橙晴たちともすでに話を進めている。橙晴の器量には、驚かされるな。彼奴は本当に朽木家当主の器量がある。お前より向いているぞ。」


『あはは。その自覚はあるよ。橙晴を、上手く支えてあげてくれ。それから、僕が居ない間、深冬を、頼むよ。深冬が欲しいと、深冬を一人にしないと、君に言ったくせに、君に頼むのは、可笑しな話なのだけれど。』


「・・・お前は、平気なのか?」
『え?』
豪紀の言葉に青藍は首を傾げる。
「人の心配をしていられるほど、冷静なのは、何故だ?」
問われて青藍は小さく笑う。


『僕が自分で決めたことだから。それも、前から決めていたことだからね。何というか、やっと来たか、みたいな。いつ来るか解らずに待つよりは、必ず来ることが解っている方が、胆が据わるというか。』
「・・・そうか。」


『あぁでも、深冬と離れるのは、寂しいなぁ。深冬が現世任務で二週間居なかった時、それがよく解ったよ。大切な人には、傍に居て欲しいものだねぇ。』
そう言って空を見上げた青藍に、豪紀は、奥歯を噛みしめた。


他人事のように言っているのは、それだけ此奴がギリギリだということだろう。
それでも、此奴は、前を見るのだ。
見えた先に暗闇しかなくても、その先にある光を探し求めて。


[ prev / next ]
top
×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -