色彩
■ 5.当主命令


翌日。
青藍は朽木邸に居た。
辞令が発表され、瀞霊廷は大騒ぎになる。
朽木邸も例外ではなく、青藍は家臣たちに詰め寄られていた。


「これは、四十六室の職権濫用です!」
「当主様を遠征部隊に送るなど・・・。」
「四十六室に抗議を申し立てましょう!」
「当主様も当主様です!何故、受け入れるなどと!!朽木家当主はそれほど安い身ではございませぬぞ!!」


青藍は家臣からの言葉を静かに聞くだけである。
その静けさに、家臣たちは徐々に声を小さくしていく。
そして、暫くするとその場に沈黙が降りた。


『・・・漸く静かになったようだね。私に話す暇を与えてくれないのかと思ったよ。』
青藍は静かに口を開く。
家臣たちはその静かな声に背筋を正す。


『君たちの言い分もよく解る。朽木家当主としてまともな判断ではないことも重々承知している。だが、他に方法があるだろうか。私の身も、朽木家も、全てを守る方法が、他にあるだろうか。』
問われて家臣たちは沈黙する。


誰一人として、その方法を思いつく者はない。
そして、どれほど頭を巡らせても、選択肢は一つしかないことに、愕然とする。
『私は、朽木家当主だ。私のこの身は、私だけのものではない。私のこの掌には、朽木家の、君たちの命運が握られているのだ。当主が家を守らずに、何を守る?』
静かな部屋に青藍の声が響く。


「ですが、それでは、青藍様が、あまりにも・・・。」
「我らを置いて行かれるおつもりですか・・・。」
「何故、お一人で決められてしまうのですか。」
「我らは朽木家の家臣です。ですが、青藍様個人の心配をすることがないような、薄情者はおりません。皆、青藍様の御身を案じているのです。」
嘆くように言われて、青藍は小さく唇を噛む。


『・・・解っているよ。君たちが案じているのは朽木家だけれど、それだけではないことぐらい。私を大切に見守ってくれた君たちだからこそ、私の身が心配なのだろう。それでなくとも、君たちには心配ばかりかけている。だが、それでも私は朽木家当主なのだ。私は、皆を、朽木家を守りたい。私を愛し、私を育ててくれた朽木家を守るのが、私の使命だ。だから、私は遠征に出る。だが、ずっと遠征隊に居るつもりはない。必ず戻ろう。私の言葉の意味が、解るね?』
問われて家臣たちは頷く。


「青藍様がお帰りになることが出来るよう、朽木家一同、尽力いたします。」
筆頭家臣が、力強くそう言った。
『頼んだよ。当主の権限は、橙晴に委譲する。橙晴の手足となり、朽木家を導きなさい。橙晴は、私などよりも上手く当主業を熟してくれる。信頼して、仕事を任せなさい。』
「畏まりました。」


『でも、橙晴にあまり無理をさせないようにしてね。橙晴だけじゃない。父上も母上もルキア姉さまも深冬も雪乃も、そして、茶羅も。睦月や師走も、無理をしないように、ちゃんと見ていてあげてね。』
「はい。」


『君たちも、無理はしないように。体を壊しては効率が悪くなる。』
「気を付けましょう。」
『では、朽木家当主の名のもとに命じる。・・・我が身を助けよ。』
「「「「承知いたしました。」」」」


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