色彩
■ 4.待つ


「・・・僕は、待ちますよ。朽木家当主の権限の全てを使って、兄様を迎えに行って見せます。兄様が一人でこんなことを決めたというのには納得いきませんが。帰ってきたら、覚えておいてくださいね。」
『それでいい。』


「・・・私は、待つぞ。青藍を早く戻らせるために力を尽くそう。だから、必ず帰ってくるのだ!いいな?」
ルキアは何かに耐えるように、涙を溢れさせながら青藍を見る。
その射るような視線に、青藍は内心苦笑する。


涙が溢れてはいるが、その瞳は力強く、瞳の奥に小さく怒りを映していた。
ルキア姉さまに、こんな瞳をさせてしまうとは。
後で怒られるのだろう。
覚悟しておかなければ。
『はい。帰ってきて見せます。』


「青藍。」
白哉の低い声を受け止めるように、青藍は白哉を見つめる。
『はい、父上。』
「このような勝手が許されると思うなよ。」
顔を上げた白哉は青藍を睨みつけてそう言った。


『覚悟の上です。』
「・・・何故、何の言い訳もせぬ。何故、それを受け入れる。何故、何の相談もなしに、そんな覚悟を決めているのだ。」
青藍に真っ直ぐに言われて、白哉は呻くようにいう。
『己の身を犠牲にしてでも、守るべきものがあるからです。私は、朽木家当主ですから。』


「・・・本当に、行くつもりか。」
『はい。先ほどそのようにお伝えしましたので。』
「何故・・・。」
呟くように言った白哉に、青藍は小さく微笑む。


『皆を、信じるからです。僕を遠征隊からここに戻すために、皆が動いてくれると、信じるからです。皆が帰りを待っていてくれると信じるからです。僕が帰ることを諦めないでいてくれると信じるからです。直接触れ合ったり、言葉を交わしたりすることが出来なくなっても、心は傍にあると、信じることが出来るからです。だから、僕は、行くのです。』
その言葉と表情を噛みしめるように、白哉は一つ瞬きをした。
その瞬きの間に、白哉の瞳に光が宿る。


「・・・では、私は、その信頼に応えよう。そなたの帰りを待とう。そなたのために、三席の座は空白にしておく。いつ帰ってきてもいいように。」
『はい。ありがとうございます。』


「青藍・・・。」
咲夜は涙を零れさせながら青藍を抱きしめる。
『母上。』
「・・・大叔父様の力を使うことも、しないのか?」


『はい。ナユラ殿がおっしゃっていたでしょう?霊王宮の者が認めても、四十六室は疑いを持っていると。十五夜様にお願いしてこの決定を取り消すことは簡単でしょう。ですが、それでは意味がありません。四十六室を余計に怯えさせることになりますから。そうなれば、また、同じことが起こります。僕は、それを、断ち切りたい。』


「断ち切るためには、行くしかないのだな?」
『はい。四十六室の信頼など欲しいと思ったことなどありませんが、それで、四十六室を納得させることが出来るのならば、信頼を得て見せましょう。』
涙を流す咲夜の背を撫でながら、青藍は穏やかに言う。


『大丈夫です。僕は、帰ってきます。僕の帰る場所は、皆が居る場所です。それだけ忘れなければ、僕は、帰ってくることが出来る。それで、帰ってきたら、もうどこにも行きません。』


「・・・本当に?」
『えぇ。本当に。だって、母上はきっと、僕のために全力を尽くしてくれる。そんな母上が味方なのですから、何も怖いことなどありません。』
青藍はそう言って微笑む。


『母上だけじゃない。この場に居る皆が、僕のために力を尽くしてくれます。この場に居ない者たちだって、僕に力を貸してくれることでしょう。物理的な距離など関係なく、僕に手を差し伸べてくれます。僕には、そんな仲間が居るのです。そして、母上にとっての父上のように、僕の心を繋ぎとめてくれる人が居ます。だから、僕は、帰ってきますよ。まぁ、行く前に皆には存分に叱られるでしょうし、帰ってきてからも叱られるでしょうけど。』


「・・・あぁ。待った分叱ってやる。だから、叱られに帰って来い。いつまでだって待っているからな。」
『はい。』


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