色彩
■ 3.応諾


『・・・父上、母上。』
それまで黙っていた青藍が口を開く。
その声に、皆が青藍を見た。


『僕は、行きますよ。・・・いつか、こうなると、思っていましたから。それが、今なのでしょう。』
「やめろ、青藍!他に、何か方法が、あるだろう。」
ルキアは縋るように青藍の袖を掴む。
その問いに、青藍は首を横に振る。


『いいえ。ありません。断れば僕は謀叛人です。死ぬまで追われ続けることでしょう。朽木の名にも傷がつきます。父上たちだって、疑いの目を向けられる。でも、これを受け入れて、僕が遠征部隊に行けば、少なくとも刑軍には追われずに済みます。朽木家だって、当主が居なくなるだけです。そして、朽木家には僕の代わりになることが出来る者があります。朽木家当主は、この決定を受け入れます。異論は認めません。他の者が行くことも許しません。』
青藍は真っ直ぐな瞳で言う。
その迷いのない様子から、彼がずっとこの時が来ることを覚悟していたことが伺えた。


「兄様は、そうやって、一人で、行くつもりなのですか・・・?」
橙晴は泣きそうに言う。
『一人ではないよ、橙晴。僕が遠征隊に行こうと思えるのはね、皆が居るからなんだ。僕には帰る場所がある。だから、行こうと思えるんだよ。そう思えるように、なったんだよ。』


「深冬を、置いていくつもりか。遠征隊は、いつ帰れるとも解らぬのだぞ!?」
『はい。深冬には、すでに話を通してあります。こうなった場合、深冬にはここに残ってもらうと。僕の帰りが遅いようなら、離縁も考えていいと、伝えてあります。』
その言葉に、皆が目を見開く。
そして、切なげに俯いた。


『でも、深冬は待っていると。そう言ってくれました。だから、僕は、必ず帰ってきます。』
青藍は凛と言い放つ。
その瞳は前を見据えていた。


『ナユラ殿。私は・・・。』
青藍はそう言ってナユラに向き直る。
そしてひたと、その瞳を見つめた。


「青藍、やめろ。」
「やめてくれ、青藍。」
「青藍。」
「だめです、青藍兄様。」


青藍のその先の言葉を聞きたくないとばかりに、その場に居る者たちは青藍に懇願するように言う。
しかし、青藍はその声を黙殺した。


『私は遠征部隊に赴きましょう。それで、この身の忠誠を示すことが出来るのならば。』
「・・・そうか。では、一月後、遠征部隊へ発て。」
『承知いたしました。』


青藍の答えを聞いて、ナユラは帰っていく。
辛い役目を負わせてしまい申し訳ありせん、ナユラ殿。
青藍は心の中で彼女に頭を下げた。
己の無力に震えるその背を見送ってから、沈黙している一同に向き直る。


『さて、ここからが大事なお話です。まず、朽木家当主についてですが・・・。』
「僕は、当主になんかなりませんからね。」
淡々と話し始めた青藍の言葉を遮るように、橙晴は呟く。


『うん。それでいいよ。でも、当主の業務は橙晴に任せます。一月後から橙晴に当主の権限を委譲します。これは、当主命令です。』
「・・・承知いたしました。」


『次に、四十六室に誠意を見せるということですが。こちらは皆に頑張って貰うしかありません。何があろうと、四十六室に刃を向けることがないように。貴方方が刃を向ければ、私の帰りが遅くなるということを肝に銘じてください。もっとも、私の帰りを待つならば、の話ですが。このような決定をしたこと、当主を降ろされても文句はいえませんから。』
そう言って青藍は問うように視線を送る。


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