色彩
■ 19.嵐の前の静けさ

「・・・信じるほかない。あれが私たちを信頼していることは、私たちが一番よく解っているだろう。」
白哉は言いながら、少し苦しくなる。
昔の咲夜を思い出したからだ。


恐怖や苦しみが大きければ大きいほど、彼女は口を閉ざす。
今もその傾向があるが、昔のそれは今の比ではない。
だからこそ、彼女は一人で苦しみ、一人で姿を消したのだ。
今の青藍からは、昔の彼女と同じ気配がした。


嵐の前の静けさ。
四十六室の沈黙が、そういうものでなければ良いのだが。
そんな白哉の願いは、数か月後、四十六室からのある命令によって崩される。


「・・・あの者の忠誠心を試す、というのは如何か。」
「なるほど。それは良い考えであるな。」
ある地下の一室。
そんな楽しげな会話が嫌に響いた。


「待て!あの者は、自らの務めを果たしている!何故、わざわざ試す必要があるのだ!」
異議を唱えるのは女である。
「力が大きすぎるのだ。大きすぎる力は、大きいが故に暴走しやすい。尸魂界の安寧のためには、こうする他ないのだ。」


「嘘だ!貴方は、あの者が恐ろしいのだろう!彼の者を止めたあの力が!」
「口を慎め。高位の賢者だからとて、侮辱は許されぬぞ。」
「・・・何が、尸魂界の安寧だ。我らは変わらねばならぬと、言ったはずだ。」
「同意した覚えはない。変わらねばならぬのは、あの者たちの方。これ以上我らの権威を蔑ろにされては困る。我らこそが正義だ。」


「我らの正義がそんなものであって堪るか!!」
「では、皆に問おう。・・・皆様、如何様に?」
問うた男に賛同する者が大半で、女は絶望しそうになる。


次こそは許されない。
こんな、人の不幸を楽しむ者たちなど、消される。
それを止められなかった私も含めて。
こうなることを予想していたあの者は、正しかったのだ・・・。


あの青年が、一体何をしたというのだ。
何故、我らはこうも変わらぬのだ。
湧き上がるのは、怒り。
目の前の男と、自分自身の無力さへの、怒りだ。


・・・知らせなければ。
絶望している暇などないのだ。
この男たちを止めるためには。
私がそれをしなくては。


変わらねばならぬ、と誓ったのは私なのだ。
変えてみせる。
こんな場所で心を折るわけにはいかない。
女は内心で呟いて、俯きかけていた顔を上げる。


「・・・どうやら、賛成多数のようだ。では、あの者の忠誠心を試すことにしよう。」
「必ず後悔することになるぞ。」
「ふん。小娘が。」
「私を侮辱するのは構わん。しかし、あの者たちを侮辱することは許さない。貴方はいずれ、その報いを受けることになる。」


女が睨みつけるのは、常に会話の中心にいる男。
この男こそが、我らの膿。
この男を排除しなければ、我らに未来などありはしない。


「・・・私が直接話をしてくる。貴方方では、あの者たちに怯えて話しにならぬであろうからな。」
女は吐き捨てるように言って立ち上がると、男の返事を待つことなく部屋を出て行く。
その拳は、きつく握りしめられているのだった。



2017.01.02 対峙編 完
〜遠征編に続く〜

己を苦しめるトラウマと戦っている青藍に忍び寄る不穏な影。
先に言っておきますが、遠征編は、その名の通り遠征編です。
誰が行くかは皆様の予想通りかと思います。
何はともあれ、ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました!


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