色彩
■ 13.殺気


「ルキアの言葉、よく心に刻めよ、住之江主税。二度目は、己の存在が消えることを覚悟しろ。・・・睦月。」
厳しくそう言って師走は睦月を見る。


「解ってる。後は、我らが当主の出番だ。」
睦月は言いながら青藍の耳から手を外した。
「ご当主。ここから先は、ご自分で。」
睦月に言われて、青藍は目を開ける。


「貴方は、もう、あの時の、非力な子どもではありません。ご自分の力で、撥ね退けて御覧なさい。私たちは貴方の味方ですが、何時までも、何時でも、お傍に居られるわけではないのです。貴方に何も見せないことは容易いが、貴方は、これを乗り越えねばなりません。解りますね?」
目付けとしての睦月の真っ直ぐな言葉に、青藍は頷く。
そして住之江をひたと見据えた。


『住之江主税。』
静かな声がその場に響く。
それだけで、住之江は自分が大きな怪物の前に無防備に放り出されているような気がした。


『朽木家当主は、当主自身も含めて、朽木家の者を害することを許しません。それが私情であるのならば、尚更です。朽木家当主は、決して貴方を許しはしない。』
静かな声の中に含まれる覇気が、住之江に頭を下げさせる。
まるでそれが当然だとでも言うように。


『次に、六番隊第三席として申し上げます。幼子を誘拐し、鎖に繋いで監禁するなど、許されることではない。己の罪を悔いることです。そして、痛みというものを知るがいい。己の痛みだけではなく、他人の痛みを。あの件で心を痛めた方は大勢います。貴方が傷付けた相手が、朽木青藍だけだとは思わぬことです。』
青藍はそこで言葉を切る。


『そして、最後に、私個人から申し上げます。・・・顔を上げなさい。』
言われて住之江は、ゆらりと顔を上げる。
青藍は拳をきつく握って、腕を振り上げる。


「青藍!!」
ルキアが静止の声をあげるが、青藍はそのまま拳を振り下ろした。
しかし、その拳は住之江の眼前でピタリと止まる。
反応する間もなかった住之江は、己の状況に体を震わせる。


『・・・本当は、貴方も、貴方の奥方も、鬼狼八房も、消してやりたい。今の私には、その程度のことは造作もない。やろうと思えば、いくらでも出来る。』
怒りに震える拳と嫌悪や憎悪を含んだ瞳には、殺気が含まれていた。


『ですが、それをすれば、貴方方と同じになる。私はそれを望みません。貴方方の命を背負うなど、反吐が出ます。何より、我が両親が、今ここに居る者たちが、私を心配し慈しんでくれた多くの者たちが、私にそんなものを背負わせまいと、怒りに震える拳を何とか抑えてくださっている。』
そう言って青藍は拳を降ろす。


『私は、いつも、そうやって守られているのです。ですから、私は、誰よりも、何よりも、強くなりたい。強くなって、私も、彼らのように、誰かを守りたい。だから、私が直接手を下すことは致しません。』
真っ直ぐに見つめる瞳は、何よりも厳しい覚悟を映していた。


『私は、これから先も、貴方や奥方や、鬼狼を恨むでしょう。憎むでしょう。あの三日間は、私の暗闇で、あの三日間の全てを誰かに語ることが出来るようになるかもわからない。思い出せば、心穏やかには居られない。自分が乗り越えなければならないものの大きさに、足が竦みそうになる。』


あの日がなければ、と何度思ったことか。
あの日がなければ、この苦しみはなかった。
忘れたくても、忘れられないあの三日間が、この先もずっと、僕の人生に付きまとうのだ。


『そのような苦しみを与えた貴方方を、私は・・・僕は、絶対に許さない。二度と、僕の前に姿を見せないでください。』
「は、い・・・。」
冷たく、怒りを含んだ瞳に、住之江の声が掠れた。

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