色彩
■ 12.誘拐の主犯

「おい、お前ら。それで、これはどうするんだ?刑軍に突きだすのは当然だが。」
言われて声のする方を見ると、いつの間にか住之江が捕えられて縄でグルグル巻きにされている。
その縄の先を浮竹が生き生きと握りしめていた。


『・・・流石十四郎殿です。不逞の輩には容赦がない。』
「あの人怖いですよね・・・。」
「あの状態で笑っていられるとはどういうことなんだろうな・・・。」
青藍、師走、睦月は呆れたように浮竹を見た。


その他の四人はそんな浮竹の様子に一瞬顔を引き攣らせ、それから何も見なかったことにして、院生たちへの指導をすることに決めたらしい。
素知らぬ顔であっという間に院生たちの方へ向かった。
それを見た浮竹は、彼等と隔離するように結界を張る。
彼らの動きを予想していたらしい浮竹に、ルキアと睦月は苦笑した。


「な、何故なのです、浮竹殿!!わ、私は、何も・・・。」
喚く住之江に、浮竹は笑みを向けた。
「青藍には何もしていない、か?」


「あ、当たり前です!何故私が、青藍様を害さなければならないのですか!!それに、刑軍など!!私は罪など犯していない!!」
縋るように見上げてくる住之江に、浮竹は笑みを深める。
ぞ、と、青藍は背中を震わせる。
やはり怒っているのだ、と。


「・・・睦月。青藍の耳を塞いでいてもいいぞ?」
選択肢を与えているようだが、その言葉はある意味命令である。
びくりとした睦月は、慌てて青藍の耳を塞いだ。
青藍も特に聞きたくはないのか、抵抗はしない。
むしろ、見るのも嫌だと、瞼を閉じたのだった。


「睦月。手を緩めるなよ。」
浮竹は確認するように言って、睦月を見つめる。
「はい。」
睦月は反射的に返事をして、青藍の耳を塞ぐ手に力を入れた。
浮竹はそれを一瞥して、住之江に視線を戻す。


「・・・鬼狼八房。」
「!!」
落とされた呟きに、住之江は目を見開く。


「漸く、全てを話した。青藍を誘拐し、破れ寺の蔵の中に閉じ込めたその本人が。誰に頼まれてそうしたのかも。」
「私、は、そんな男のことなど、知りませぬ。」
「ほう?俺は、男だと言ったか?」
その言葉に、住之江は息を呑む。


「・・・青藍を欲するあまりに、思い余って誘拐した。その主犯の名前を、八房は、教えてくれた。それを聞きだすまでに、酷く時間がかかったが。」
浮竹はそう言ってため息を吐いた。


「ま、よっぽど青藍が憎いのでしょう。あの男は。青藍を苦しめたくて、口を噤んでいるようでした。主犯に協力したのも、主犯の名をこれまで明かさなかったのも、決してあんたのためじゃないからな。」
師走は住之江を睨みつけるように言う。


・・・俺は、時々師走が怖い。
浮竹さんや京楽さんをもってしても口を割らなかった八房の口を、開かせてしまうのだから。
当然、どうやって、という質問は怖くてできない。
睦月はそう思いながらチラリと師走を見る。
珍しく感情をあらわにしている兄に、住之江たちへの怒りや憎悪が複雑に絡まっていた己の心が冷静になった。


「その主犯は、貴方だ。あの時、幼い青藍を誘拐したのは鬼狼八房で、そう命じたのは住之江主税。そして・・・それに加担したのは、貴方の奥方である、住之江多津子。あの誘拐は、その三人によって行われた。その後も、何度も青藍の誘拐を目論んだ。」
浮竹にひたと見つめられて、住之江は顔を青くした。


「ち、違います。わ、私は・・・。」
「証拠は全て揃っている。問答はもはや無用。・・・朽木。」
「はい。」
ルキアは懐から書状を取り出して、住之江の眼前に突きつける。
「・・・朽木青藍の誘拐・監禁の罪により、住之江主税の捕縛を命ずる。」
書状を読み上げると、住之江は愕然としたようだった。


「安心しろ。捕縛命令が下されているのは、貴方だけではない。貴方の奥方、多津子殿も今頃刑軍に捕縛されていることだろう。主犯である貴方の方が罪は重いが、多津子殿には強姦未遂の罪も加えられている。刑罰は同じくらいになることだろう。夫婦で己の罪を悔い改めよ。・・・もっとも、私たちは、八房を含め、貴方方を許しはしないが。」
ルキアに静かに言われて、住之江は崩れ落ちる。

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