色彩
■ 10.働き次第


「調べるのが辛かったんですよ・・・。睦月もこんな目に遭うのかと思ったら吐き気がしました。」
『ふぅん?君が一番楽しんでいるくせに。・・・読むのも気色悪いから、もういいや。』
青藍はそう言って書類から目を離す。


「え、酷くないですか、ご当主。俺の血と涙と汗の結晶を最後まで読まないなんて・・・。」
師走はそう言って泣くふりをする。


『嘘をつかない。住之江家の家臣たちから聞き出したことを書き写しただけの三分調査でしょう。私が最後まで読まないこともお見通しで、最後の方の文字なんか雑過ぎる。こんな書類を私に提出するのは君と睦月くらいだよ。』
「そりゃあ、夜を共にする仲ですからねぇ。」
師走は楽しげに言う。


『紛らわしい言い方をするな。夜通し仕事に追われていただけだろう。この私の前で酒を片手に仕事をするとはいい度胸だよ。』
「ご当主も呑んだじゃないですか。」
『呑ませたのは君たちだ。その上睡眠薬まで盛られていると来た。』


「ご当主が大人しく寝ないのが悪いんです。睡眠不足なんかで倒れられちゃ困るんですよ。」
『忙しくて寝る暇がなかっただけだよ。仕事が終われば寝るつもりだった。』
「どうだか。放って置くと死ぬまで働くお人ですからね。」
『五月蝿いよ。・・・まったく、私を何だと思っているのか。』
青藍は拗ねたように言う。


「何って、そりゃあ、ご当主ですよ?なぁ、睦月?」
「そうですねぇ。ご当主だと認識しておりますが。毎日のように、昔は可愛かったのに何故今はこんな鬼当主になってしまったのだろう、と内心で呟いております。」
にっこりと言われて、青藍は呆れた視線を送る。


『それ、本人の前で言うのやめない?その上、その口調で言われると余計に腹立たしい。』
「しまった。口が滑った。どうしよう。」
睦月は棒読みで言う。


『・・・改める気はないわけだ。口が悪くて困る。しかし、何故、私と睦月がそういう仲だという噂が立ったのだろうねぇ。』
青藍はそう言ってため息を吐く。
「お前が、浮名の一つも流さないからだろ。」


『いや、それは睦月もでしょう。そうだとしても、私は深冬に飽きて楼閣通いをしているという噂もあるくらいなのだよ?』
「噂が無さすぎて隠れて存分に遊んでいるとでも思ったんだろ。」
『まさか。私には深冬という可愛い妻が。』


「本当だよな。お前は深冬が可愛くて、可愛くて、可愛くて仕方がないのに。」
睦月はそう言ってため息をつく。
「そうそう。見ているこっちが恥ずかしいわよ。」
「深冬はよく兄様の妻になんかなったよねぇ。」


「でも、加賀美さんの表情がよく変わるのは、青藍さんの前だよ?」
紫庵は不思議そうにいう。
「まぁ、深冬も深冬なんだろ。」
「加賀美の言う通りだ。深冬も深冬なんだよな・・・。」
「青藍を一番甘やかすのは深冬だからな。」


「ははは。それはそれでいいだろう。なぁ、朽木。」
「そうですね。最近の青藍は甘えることを忘れるので困ります。」
「「「「「確かに。」」」」」
ルキアの言葉に、浮竹、雪乃、橙晴、睦月、師走が頷く。


「え、青藍さんが、甘える・・・?」
「知らないのか?こいつ、恥ずかしい奴なんだぞ。」
『こら、豪紀。いらないことを久世君に吹き込まない。まったく、皆して好き勝手言ってくれる。見ていて恥ずかしいのはこっちも同じだよ、橙晴に雪乃。』


「「それは雪乃(橙晴)のせい。」」
「お前らも青藍と深冬に負けず劣らずだよな・・・。」
声を揃えた二人に、豪紀は呆れたように言う。
『豪紀だって大概恥ずかしい奴だろう。実花姫に一体何をしているのやら。何故私が実花姫から惚気を聞かされなければならないのかな。』


「は?」
青藍の言葉に、豪紀は動きを止めた。
『こっちの反応を見て楽しんでいる、というお話だったけれど。』
「は・・・?」


『実花姫を煽って遊んでいるくせに。』
「確かに、そんなことを言っていたわね、実花様。」
「・・・俺のことはいい。今はお前と草薙先生の噂についてだろう。」
豪紀は楽しげな面々から目を逸らしながら言う。


「ははは。何だ。豪紀も中々面白そうだな。」
「そうですね。後で実花様にお話を伺いましょうか。」
そんな豪紀に浮竹とルキアはからかうようにひそひそと話す。
「いや、それは、本当に、やめて、頂けると・・・。」
「ははは。お前の働き次第だな。」

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