色彩
■ 9.気色悪い


「・・・いやいやいや、待て。何危ないもん取り出してんだよ。」
ゆらり、と住之江に近付いていく睦月の前に、師走が姿を見せて彼を止める。
「こら、睦月。そんな針で刺したら彼奴死ぬぞ?」
「ご心配なく。この針で刺して人を殺したことなどありません。」


「いや、そういうことじゃなくて!・・・ご当主!!見てないで止めてください!」
進んでいこうとする睦月の肩を掴んで、師走は青藍に言う。
『どうしようかなぁ。』
「どうしようじゃなくて!俺、嫌ですよ、怖いもん見るの!この針はただの針じゃないんですよ!?技術開発局特製の針なんです!!つまり、危険物です!」


『大丈夫さ。眠らせてはいけないと言っておいたから。』
「そういうことじゃありません!・・・だから、お前はとりあえず止まれ、この馬鹿!」
「馬鹿とは心外な。青藍様の許可があります。」
「あぁ、もう。・・・ルキア様!!出てきてください!!」
師走に呼ばれてルキアが姿を見せる。
苦笑しながら睦月に近付いた。


「睦月。止まれ。確かに屈辱的な発言をされたが、耐えろ。」
ルキアは宥めるように肩を叩く。
「ルキア、様。止めないで頂けると。」


「そうか。・・・青藍。睦月を止めるのだ。気持ちは解るが私情を挟むな。それでは白哉兄様に追いつくことは出来ぬぞ。それでもいいのか?」
ルキアはそう言って青藍を真っ直ぐに見つめる。


『・・・それは困ります。いつまでも父上に遊ばれるのは納得がいきません。』
「では、睦月を止めるのだな。」
『・・・仕方ありませんねぇ。睦月。止まりなさい』
青藍に言われて睦月はピタリと動きを止めた。


『それでいい。しかしまぁ、ルキア姉さまを連れて来るとは、師走は用意が良いねぇ。』
「お褒め頂き光栄にございます、ご当主。」
言われて師走は慇懃無礼に一礼する。


『それで?見つかったかい?住之江家の次期当主は。いや、住之江家から追い出されているから、元次期当主、かな。』
「!?」
青藍の言葉に住之江は目を見開く。


「見つけましたよ。賢明な住之江家の家臣一同は、あの方を当主に据える準備を始めております。そこに居られる方の「趣味」に関する証拠もこちらに。」
『流石。仕事が早くて助かる。』
師走が差し出した書類を受け取って、青藍は微笑む。


『さて、と。先ほどの気色悪い話はどうでもいいとして。』
「気色悪いとは私の科白です。何故私が青藍様の夜のお相手などせねばならぬのですか。私にだって選ぶ権利があるはずです。」
睦月は不満げに言う。


『あはは。私だって君が相手じゃお断りするよ。そもそも君を選んだりしない。もしそんなことをすれば私は君に毒を盛られて死んでしまう。体のどこに毒が仕込んであるのか解らないのだから。』


「試してみますか?」
『試させて欲しいのかな?』
二人はそう言って視線を交わす。
「・・・青藍も睦月もやめろ。そういうことを言っているから勘違いを生むのだ。本当に「そっち」だと思われるぞ。」


『あはは。ルキア姉さまでさえ、そう思われますか。では、やめましょう。・・・まぁ、睦月。いつも通りに戻っていいよ。』
「ですが・・・。」
睦月はそう言って様子を見つめている院生たちを見る。


『今更だろう。この間、此処での出来事の時、睦月、そのまま出てきたのだから。』
「そう言えばそうだった・・・。じゃあ、いいか。」
『あ、ちなみに、声を大にして言うけど、私と睦月はそんな関係じゃありません!私は男に興味などない。』
「俺だってない!あぁ、気色悪い!!それで今すぐにこの手を消毒したい!!」
睦月は吐き捨てるように言う。


「はいはい。俺が消毒してやるよ。」
師走はそう言って懐から消毒液を取り出して、そのまま睦月の手に流しかける。
「・・・たまには役に立つな、師走。」
消毒液を掛けられながら、睦月は意外そうに言った。


「喧嘩売ってんのか、お前。俺は何時でも役に立ってんだろ。今日だってばっちり仕事してきたっての。ねぇ、ご当主?」
『うん?そうなんじゃない?』
師走に問われた青藍だが、書類を見ながら適当に答える。


「ちょっと、ご当主?聞いてないだろ。適当に答えるなよ・・・。」
『大丈夫。ちゃんと聞いているよ。師走はたまに役に立つ。』
「たまに!?俺、毎日どんだけ駆け回っていると・・・。」
『あーうん。そうだねぇ。・・・しかし、よくもまぁ、こんなに。』
手元の書類を見て、青藍は呆れたように言う。

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