色彩
■ 7.夜を共にする仲


「なるほど。それは、本当なのですか、睦月。」
・・・いつの間に名前で呼ばれるようになったの、睦月。
青藍は憐れむように睦月を見る。
住之江に問われて笑顔になった睦月だが、その瞳は死にかけの魚の様である。


「えぇ。確かに私は青藍様に忠誠を誓った身。橙晴様が申し上げました通り、私は朽木家を離れる気はございません。それに、私は元々流魂街の民。住之江家に受け入れて頂くなど、分不相応にございます。さらには・・・。」
睦月はそこで言葉を切る。
そして笑みを深めた。


「さらには・・・?」
「・・・我が主を害する者の下に付く気などございません。」
微笑んだまま言われて、住之江は若干表情を硬くする。
それから取り繕うように微笑んだ。


「それは、どういう意味でしょう?」
「そのままの意味にございます。・・・我が主は、その利用価値とこの容姿から、たびたびその身を危険に晒されておりまして。それ故、幼い頃からこの私が目付け兼護衛としてお傍に居ります。私がこれまでに捕えた不逞の輩の数は数えきれないほど。そこに居らっしゃる浮竹殿に捕えて頂いたこともございましたねぇ。」
睦月はそう言って浮竹を見る。


「はは。そうだな。青藍は気が付くと攫われそうになる奴だからなぁ。」
「えぇ。本当に困った主です。そして、当然のことながら、捕えた者から誰に指示をされたのか聞き出しております。」
微笑みを崩さずに言った睦月に、住之江は若干顔を青くさせる。


「それを調べたのも私でして。白哉様、咲夜様からの命があったものですから。つまり、私は、青藍様を狙う者を全て把握しているということです。その中には、住之江様のお名前もございます。それがどういうことか、お分かりですね?」


「へぇ。兄様、大変なのですねぇ。」
「そのお顔ですもの、仕方ありませんわ。院生時代も大変でしたもの。」
「そうだな。盗撮は日常茶飯事だった。」
「あら、豪紀様。よく御存じなのね。」


「青藍殿はそこに居るだけで目立つからな。」
「えぇ・・・。そんな日常は嫌ですね・・・。」
「はは。今もそんな日常を生きているぞ、青藍は。」
五人は他人事のようにそんな会話をする。


「・・・橙晴様。他人事のように申しておられますが、貴方様も御身を狙われる身であることをお忘れなきよう。媚薬などを盛られていること、私が知らないとでも?」
睦月はそう言って橙晴をじろりと見る。
「あはは・・・。気をつけまーす。」


「当然、他の皆様方も気を付けて頂かなければ困ります。青藍様と関わる以上、その身が危険に晒される可能性があることをお忘れなく。」
「「「「はい・・・。」」」」


「それはそれとして、そのような方に下げる頭などありませんし、そのような方に庇護されるならば私は流魂街の民に戻る方を選びます。この私を簡単に手に入れられるとお思いにならないことです。」
睦月はそう言って笑みを消す。
「・・・。」
住之江は沈黙した。


『そういう訳ですので、睦月を住之江家が引き受けるというお話は、断らせて頂きます。あぁ、そうそう。一応言っておきますが、この私を手に入れるのは睦月以上に難しいですよ。私に手を出せば、朽木家が黙っておりませんので。私も住之江家を潰したくはありませんし、これ以上仕事を抱えるのは御免被りたい。』
青藍は面倒そうに言う。
睦月はそんな青藍の言葉に大きく頷いた。


「・・・なるほど。青藍様は余程睦月を手放したくないらしい。妻がありながら、一医者にそこまで執着するとは。睦月も睦月で、主に心酔しているようですな。」
住之江に歪んだ笑顔でそう言われて、青藍は表情を冷たくする。


『言葉の選び方にお気を付け下さい。誤解を招かれますよ、住之江殿。』
「誤解?事実の間違いでは?昔から噂があるでしょう。青藍様と睦月に関する噂が。夜を共にする仲だとか。」


『「・・・。」』
住之江の言葉に、青藍と睦月は嫌そうに互いを見る。
そんな二人に見ていた五人は必死で笑いを堪えた。
全身を震わせながら口元を押えて二人から目を逸らす。

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