色彩
■ 6.返答


『突然の場所の変更がありましたこと、お詫び申し上げます。浮竹隊長が無理をおっしゃったそうで。』
「いえいえ。私としては、こうして霊術院の見学が出来て嬉しい。中々踏み入れられる場所ではありませぬ故。」


『そうですか。それはようございました。』
住之江の微笑みの中に欲を感じて、青藍は背中をぞわり、とさせる。
睦月は彼から逃げるように、青藍の後ろに控えた。
浮竹たちもまた、住之江に挨拶するために近付いてくる。


「こちらの都合での変更にもかかわらず、足を運んでいただいて申し訳ない。」
「構いませんよ。浮竹隊長に頼まれては、お断りするのも失礼というものでしょう。」
「こうしてご挨拶するのは初めてですね。加賀美家当主、加賀美豪紀と申します。こちらは、周防家次期当主、周防梨花殿の婚約者であらせられる久世紫庵殿です。」


「は、初めまして。久世紫庵と申します。」
「そうですか。貴方が噂の久世紫庵殿。初めまして。住之江家当主、住之江主税と申します。以後、お見知りおきを。」
言いながらまじまじと見つめられて、紫庵は後ろに下がりそうになる。
それを後ろに居た橙晴が止めて、紫庵の前に出る。


「お初にお目にかかります。朽木橙晴と申します。こちらは妻の雪乃です。」
「お初にお目にかかります、住之江様。」
橙晴に紹介されて雪乃は恭しく一礼する。
しかし雪乃には興味がないらしく、住之江は橙晴に微笑んだ。


「橙晴様にまでお目にかかることが出来るとは。今日は本当に足を運んで良かった。」
「勿体ないお言葉です。」
なるほど。
兄様の微笑みが怖い訳だ。
橙晴は内心で呟く。


『して、本日はどのようなご用件でしょうか。』
「先日送った文の内容について。」
『なるほど。この草薙睦月を住之江家に迎えたいというお話にございますね。住之江殿の養子として。』
青藍の言葉に、橙晴たちは目を丸くして睦月を見る。
睦月は悟りを開いたような目で彼らに視線を返す。


「そうですな。そのご返答を伺いに参った次第です。」
『結論から申し上げますと・・・。』
「えぇ。」
『・・・お断り申し上げます。』
青藍は笑みを絶やさない。


「理由を伺っても?」
解っていたというように、住之江は青藍に問う。
『この草薙睦月は、朽木家の医師であります故。』
「朽木家ならば、医師など幾らでも雇うことが出来ましょう。朽木家に雇われたい有能な医師は幾らでも居るのですから。」


『そうでしょうね。ですが、草薙睦月は、唯一無二の腕の持ち主にございます。』
「ほう?」
『詳しくお話はいたしませんが、彼は、逸材でして。四番隊隊長、卯ノ花烈でさえ、彼を比類なき医者と認めております。そんな彼を、朽木家が手放すなどあり得ません。』


「それほど信頼があるのならば、貴族の籍に入れることに何の不都合がありましょうか。それを、住之江家が受け入れると申し上げております。」
・・・しつこいなぁ。
青藍は内心で呟く。


「・・・それは無理でしょう。」
『橙晴。当主同士で話しているのですよ。』
口を挟んだ橙晴に、青藍は窘めるように言う。


「申し訳ありません。ですが、内容が内容でしたので。発言してもよろしいでしょうか?」
「私は構いませんよ。」
橙晴に伺うように見つめられて、住之江は頷く。


『仕方ありませんね。では、発言を許します。』
「ありがとうございます。・・・それで、そこに居る草薙睦月を受け入れるというお話でしたが。」
「えぇ。それほどの者ならば、貴族の養子となっても問題ありますまい。」


「確かにそうでしょうね。しかし、この睦月は朽木家当主、いや、我が兄、朽木青藍に忠誠を誓った者。朽木家から離れることなどありますまい。その上、この者は貴族の地位など必要として居りません。ですので、睦月が住之江家に籍を置くということはあり得ません。」

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