色彩
■ 5.これ以上ない微笑


「・・・な、なんか、こわい、ですね?」
「そうね・・・。あまり近づかない方がいいわね。」
「ですよね・・・。豪紀さんは、ああいう人なのです?」
「まぁ、そうね。加賀美家の当主は手強いと評判よ。」


「そうですか・・・。おれ、大丈夫かな・・・。将来、あの人の義理の兄になるのですが。」
紫庵は不安げに雪乃を見る。
「・・・それはつまり、私や青藍たちの義理の兄でもあるってことよね。苦労するわね、貴方。」


「えぇ!?そうなんです!?いや、そうか・・・。でも・・・えぇ・・・そんな・・・。」
「大丈夫よ。困ったら橙晴がなんだかんだ言いながら助けてくれるわ。」


「それは・・・そう、ですね。橙晴はそう言う奴です!」
「そうそう。貴方、本当に橙晴が好きなのね。」
「雪乃さんには負けますけどね。」
「あら、結構いうじゃないの。確かに面白い子だわ。」


『しかしまぁ、何故隊長たちが僕らをご指名なのか解りましたよ。』
「はは。そうか。」
『えぇ。見た目、ですね?』
「そうだな。見て解りやすい能力の方がいいだろう?豪紀はまだ何か隠しているようだが。」
浮竹は言いながらチラリと豪紀を見る。


「まぁ、隠してはいますけど。」
「むしろそっちが本質的なものだろう?」
「そういうことになりますかね。第二輪の攻撃はおまけみたいなものです。」


「ほう?」
「興味がおありならば、後で平子隊長にでも聞いてくださいよ。うちの隊長がそれを素直に教えるかどうかは知りませんけどね。まぁ、気が向けば今日も使うかと。」
「やっぱり手強いよな、お前・・・。」


『隠していると言えば、雪乃も隠していますよ?』
「何!?」
青藍の言葉に浮竹は雪乃を見る。
「私の攻撃もおまけのようなものです。本質は攻撃ではありません。」
「だからこそ雪乃は四番隊なのですよ、十四郎さん。」


「なるほどな。そっちは大体分かった。つまり、お前ら五人を相手にするのは骨が折れるということか。」
浮竹は疲れたように言う。
『ふふ。そうですねぇ。心強い四番隊の席官が居りますので。』


「そしてお前だよな・・・。俺、お前とは戦いたくないぞ・・・。寿命が縮む。何となく精神的にやられそうだ・・・。」
『何をおっしゃいますか。僕などまだまだですよ。』
「俺は見たぞ。お前の本性。」
浮竹は怖いものを見るように青藍を見つめる。


『そんな。せめて本質と言って頂けると。本性だと僕、性悪みたいじゃないですか。』
その視線を受けながらも、青藍は微笑んでいる。
「まぁ、確かに兄様のあれは本性というべきですけどね。」


「橙晴もそう思うよな。しかも、信じられないことに、暴走した漣の鬼道を片手で消したんだぞ?弾いたならまだ解るんだが、消したって何なんだ・・・。あれだけの質量と回転の鬼道を、反鬼相殺するとはどういうことだ。京楽がパンドラの匣だと言っていたぞ。」


『あはは。あれは偶然ですよ。同じことは二度と出来る気がしません。』
「・・・胡散臭い微笑みね。絶対嘘よ。」
「そ、そうです、ね・・・。嘘だというのが、すぐに、解る・・・。」
『何か言ったかな、雪乃、久世君?』
「「いえ、何も。」」


「・・・青藍様、住之江様をお連れしました。」
そこへ睦月が現れる。
後ろにピタリと男がくっついていて、睦月はげんなりした様子だ。
その様子を見て、青藍は気の毒そうに睦月に視線を向けながら斬魄刀を鞘に収める。
それから、笑顔を作って住之江に向き合った。


『お久しぶりにございます、住之江殿。』
これ以上ないくらいの微笑みである。
その青藍の微笑みに、浮竹たちは顔を引き攣らせるのだが。
院生たちもまた、何かを感じ取ったように静かになった。


「お久しぶりでございます、青藍様。相変わらず、お美しいお姿ですなぁ。」
しかし住之江はにこにことそんなことを言って青藍に近付く。
青藍は後ろに下がりそうになる足を何とかその場に踏み止まらせて、笑みを絶やさない。
その姿に、浮竹は内心で苦笑した。

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