色彩
■ 36.意地っ張り

六番隊の修練が始まってから一刻ほど。
カンカンと、修練場には木刀の音が響き渡っている。
といっても、木刀を振るっているのは白哉と青藍の二人だけである。


白哉と青藍で打ち合っているのだ。
既に半刻ほど打ち合いが続いている。
他の者たちはその凄まじい打ち合いに見入っているのだ。
双方引かずに、呼吸の乱れもない。
その表情は涼しげで、本当に半刻も打ち合っているのかと疑うほどである。


「・・・ほう。やっているようだな。」
その戦いを見ていた橙晴と恋次の後ろから、そんな楽しげな声が聞こえてきた。
「母上。またいらっしゃったのですか?」
橙晴は二人から目を逸らさずに問う。


「ふふ。白哉と青藍がやり合っているという話を聞いたのだ。恋次と橙晴は参加しないのか?」
「俺らは休憩っすよ。あの二人がおかしいんです。もう半刻やりあってんすよ?」
「なるほど。だからみんなで見学という訳か。」


「見ているだけでも勉強になりますし。・・・兄様は、やっぱり母上似ですねぇ。あんなに軽い動きなのに、一撃が重い。父上は軽く受け止めているように見せているだけですね。」
橙晴は二人の動きをまじまじと観察している。


「よく気が付いたな、橙晴。確かにそうだ。まぁでも、そろそろ決着が付くぞ。」
「「?」」
楽しげに言った咲夜に、二人は首を傾げる。
すると、咲夜の言ったとおり、青藍の木刀が弾かれた。


『・・・っ!!!!』
右から切り込んだ白哉の木刀を青藍が受け止めた瞬間に、白哉が、ふ、と力を抜いたのである。
押し合いになることを予想していた青藍はその一瞬動きが鈍り、白哉はその隙に次の攻撃を繰り出した。


その一瞬の動きの遅れによって、青藍は白哉の打撃を流しきることが出来なかったのだ。
カラン、と音を立てて、木刀が落ちる。
静かな修練場にその音がよく響いた。


「甘い。相手の動きが常に予想通りと思うな。実戦では致命的な隙になり得るぞ。」
そんな言葉とともに、白哉の厳しい視線が青藍に向けられる。
『・・・はい。ありがとうございました。』
青藍はその言葉と視線を受け止めて、白哉に一礼する。
白哉はそれに軽く礼を返して、くるりと青藍に背を向けた。


「・・・だが、膂力は追いついてきたようだな。精進しろ。」
『はい。』
素っ気なく言った白哉に青藍は頷く。
「・・・恋次。」
「はい。」
「この後は任せる。私は定例会だ。」
白哉はそう言い残して、修練場を出て行った。


「・・・ふふ。意地っ張り。」
そんな白哉を、咲夜はにやにやと見送る。
そして、青藍の元に足を向けた。
「・・・青藍。」
『?』
ニヤニヤしながら近付いてきた咲夜に青藍は首を傾げる。


「・・・白哉の意地っ張りに、付き合う、な!!」
そう言いながら咲夜は青藍の背中を叩く。
バシっという音がして、青藍は前のめりになった。
『・・・ぷは、はぁ、はぁ、はぁ、は・・・。』
衝撃で息を吐き出した青藍の呼吸が酷く乱れている。
それを見て、咲夜以外の者は目を丸くした。


「まったく、意地を張るのも大概にしろ。相手に自分の体力の底を見抜かれないようにするのも大切ではあるが、弱っているふりをして隙を突くという方法もあるのだぞ。むしろ実戦ではそちらの方が効率的だ。無茶も少なくて済むからな。」
咲夜は呆れたように言いながら青藍の背中を擦る。


『・・・はぁ、は。だって、悔しい、じゃないですか。父上は、呼吸一つ乱れていないのに、僕だけ、息が上がって、いるなんて。』
息を切らせながら、青藍は悔しげに言う。
「そんなことはない。」


『え?』
咲夜の呟きに、青藍は不思議そうな顔をする。
・・・息が上がっているからこそ、白哉は早々に修練場を出て行ったのだ。
全く、呆れるほどに、意地っ張りな奴だ。
咲夜は内心で呟く。


「ふふ。いや、何でもない。しかしまぁ、随分とやられたな。あちらこちらに痣が出来ているぞ。昔よりは、少なくなったが。」
『当たり前です!僕だって、日々成長しているんです!』
頬を膨らませる勢いでそう言った青藍に、咲夜は苦笑した。


「そうだな。どうやら膂力は白哉に追いついたらしいな。体が出来たということだ。」
咲夜はそう言って青藍の頭を撫でる。
涼しい顔をしているだけで、汗をかいていないわけではないことに気が付いて、咲夜は再び苦笑する。


『それでも膂力だけです。まだまだ追いつきそうもありません。・・・いい加減、やめてくださいよ、母上。』
言われて咲夜はもう一撫ですると、青藍の頭から手を離す。


「ふふ。すまんな。さぁ、青藍は少し休憩だ。痣でも治しているといい。」
『はぁい。』
言われて青藍は不満げに修練場の隅に向かって歩き出した。


「・・・よし!他の者たちは休憩終わり!今日はこの私が直々に指導してやるぞ!」
咲夜の言葉に修練場は騒がしくなり、次々と咲夜が隊士たちを伸していく。
恋次と橙晴も参戦するも、敵わずに苦戦する。
それを見た青藍は痣を直すのもそこそこに、咲夜の独壇場に飛び込んだのだった。

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