色彩
■ 30.脱ルキア宣言


「まぁ、睦月よりは男として健全でしょ。」
言いながら師走は睦月をチラリと見やる。
「あ?喧嘩売ってんのか、お前。」
そんな師走を睦月は睨みつけた。


「そう睨むなよ。でも、お前、いい加減どうにかしないと男に狙われるぞ。」
「!?」
師走に軽く言われて、睦月は目を見開く。


「なんだ、気付いてないのか。・・・青藍、こいつ、大丈夫なのか?」
『あはは!大丈夫だよ。睦月は知らない人にほいほい付いて行ったりしません。』
「でも、他の貴族から引き抜かれそうになってんだろ?」
『僕が睦月を渡すとでも?』


「・・・まぁ、それはないな。睦月もここから離れられんだろ。」
『ふふ。そうそう。でも、睦月、本当に気を付けてね。君を欲しいという貴族の方には、そういう嗜好を持つ方もいらっしゃるから。』


「それはつまり、睦月を男妾として欲しがっているということ?」
『はっきりとそうは言わないけれど、本音はそうだろうねぇ。一部で睦月は僕の男妾だという話も流れているようだけれど。』
茶羅の問いに青藍は楽しげに言う。


「何故楽しげなのよ、青藍・・・。」
『あはは。まぁ、僕は何を言ってもそういう嗜好の方に狙われるし。諦めたっていうか。』


「楽しむ方向に切り替えたのね。・・・これじゃあ、睦月さん、大変ね。」
「そのようね。青藍様ほどでなくとも、睦月さんも大変なのね。」
「お気の毒に。」
雪乃、玲奈、実花は気の毒そうに青褪めた睦月を見つめる。


「・・・俺、は、一体、どうしたら?」
睦月は縋るように青藍を見る。
同性から狙われる青藍がどんな目に遭っているかよく知る睦月だからこそ、余計に怖いのだ。


『とりあえず、女性が恋愛対象であることを知らせた方がいいよ。睦月にそういう噂が無さすぎて、そちらの趣味があるのかと疑われているようだから。もっとも、僕はそれを知らせても狙われているわけだけれど。睦月は良く知っているでしょ?』
「あぁ・・・。」
げんなりしながら睦月は頷く。


「でもこいつ、おでこにキスが精いっぱいだからなぁ。可愛らしすぎる。」
『そうなんだよねぇ。・・・あれから何か進展ないの?』
「何それ!私も聞きたいわ!!」
「「「私も!」」」


皆にわくわくとした視線を向けられて、睦月は唇を固く結ぶ。
ルキアに避けられていた睦月だが、ルキアはあれをただの悪戯だ、と結論付けたらしく、再び一緒に甘味処に行くまでに関係は修復されていた。
しかし、それから何故か、ルキアは毎日のように、今日こそは赤くならないぞ、と気合を入れて睦月の元へ来るのである。


・・・恐らく、俺の想いは全く伝わっていない。
まぁ、それは別にいい。
元々期待はしていない。
何だかんだ言いながら、ルキアの一番は阿散井なのだ。
正直、阿散井に勝てる気はしない。
俺は彼奴ほど真っ直ぐではないから。


そして俺は、もう、一人ではない。
孤独が全くなくなった訳ではないが、信頼できる仲間が居る。
ルキアだけに執着する必要もないのだ。


そこまで考えて、睦月ははたと気づく。
俺は、もしかすると、自分と似ている境遇のルキアに執着しているだけなのかもしれない。
ルキアも俺も、朽木家に拾われ、家族と呼ばれるまでに受け入れられた。


同じような境遇だからこそ、全てを解り合えると思って、それが出来るのは彼女だけなのだと、感じているだけだったのだ。
だが今は、俺を理解してくれる人がたくさん居る。
全てを解り合うことは出来ないが、一部分ずつでも解り合える人が居て、それでいいのだと思えるようになっているのだ。


俺はもう、ルキアとは、家族なんだ・・・。
今更自分の本音に気付くなんて。
睦月は苦笑する。


『睦月?何笑っているの?』
怪訝そうに問われて、何でもないと首を横に振る。
「進展聞かれて苦笑ってどういうことだよ?」
「何かあったのかしら?」


「いや?ただ・・・。」
「ただ?」
「ルキアは男を見る目があるよなぁ。見た目なんかに騙されないんだから。」
再び苦笑を漏らせば、皆が首を傾げた。


「俺、これからは脱ルキアで行こうと思うわ。」
『何それ!?もしかして、睦月、ルキア姉さまに振られた・・・!?振られて自棄になっちゃった!?』
青藍は睦月の肩を掴んでぐらぐらと揺らす。
「それは違うから落ち着け。」


『え、じゃあ、何!?何があったの!?』
「何にも。」
『何にもないのに何故その発言!?』
「何にもないからこその発言だろ。」


『どういうことなの!?ねぇ!?』
「俺も、お前も、ルキアも、全部飛び越えて家族になった、ってことだろ。」
『だからどういうことなの!?』
「俺自身、朽木家と関わって成長したっつーことだよ。・・・俺のことはもういいだろ。」


『良くない!』
「俺はそれでいい。」
穏やかに言った睦月に、青藍は唇を尖らせる。

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