色彩
■ 29.信用がない


『・・・で、君たちは先ほどから首を傾げているようだけれど。一体、どうしたのかな?』
青藍たちの会話を聞きながら時折首を傾げている女性陣に、青藍は視線を向けた。


「質問よろしいでしょうか、当主様。」
茶羅は居住まいを正して、手を上げた。
『何かな、茶羅。』
「私を狙った不逞の輩とは一体・・・?」


『君を人質にして、朽木家を動かそうとする者がある。君の籍は朽木家から抜かれているが、君は紛れもなく朽木の姫だ。そして、私たちが茶羅を大切に思っていることは周知の事実だ。それを利用しようと、君は狙われている。だが、もし君が攫われても、朽木家としては動くことが出来ない。君はもう朽木家の者ではないのだから。それは解るね?』


「なるほど。優しい当主様はそれを心配して、私に護衛を付けて、その上、燿を試しているのね。噂に違わぬ優しさね。」
刺々しく言われて青藍は苦笑する。
『そう言わないでくれ。君に黙っていたのは謝る。』


「全く、仕方のない人。でも、それを聞いて解ったわ。私の周りに居る者がたまに居なくなるのはそう言うことね?」
『そうだね。気付いていたのかい?』
「当然。私には私の情報網があるの。子どもたちの足は、大人が思うよりも早いわよ。」
茶羅は悪戯に笑う。


『なるほど。流魂街の子どもたちに勉強を教え始めたという報告があったが、君の「教え子」たちは君の目であり耳である、ということか。』
「えぇ。彼らは賢いわ。霊力も持ち合わせているから、いずれ、死神になることでしょう。」
『そうか。それは楽しみにしておこう。』


「深冬が狙われているとはどういうことです?」
雪乃は厳しい顔をして問う。
『そのままの意味さ。さっきも言ったとおり、深冬に取り入ろうとする者や、彼女を攫って利用しようとする者が絶えなくてね。』


「・・・そう。確かに、当主様を直接狙うよりはまともな判断ね。」
『ふふ。そうだね。』
「本人には?」


『教えていない。護廷隊内に居る時は、基本的に母上がそばに居る。母上でなくとも十四郎殿が居る。その他の場では、朽木家の心強い面々が彼女のそばに居る。そして、この私がそばに居る。わざわざ教えて怖がらせることもない。それに、深冬は自分でそれを解っている。だから、君がそんな顔をする必要はない。君には君の役目がある。』
「・・・そうですか。では、何もいいませんわ。」


『・・・さて、そろそろ「僕」に戻ってもいいかな。「私」は疲れた。』
青藍は問いながらも返答を聞く気はないらしい。
『あーあ、お昼寝でもしたいなぁ。』
書類を文机に投げ出して、大きく伸びをする。
それからすでに冷えているであろうお茶を啜った。


「青藍様、本当に当主なのね。」
その様子を見ながら玲奈は意外そうに言う。
「そのようね。相変わらず変わり身の早いこと。これじゃあ、梨花姉さまが青藍様に太刀打ちできるようになるのはまだまだ先ね。」


「さっきまで如何わしい話をしていた奴なのにな。」
「そうそう。ま、女性陣も女性陣だが。」
『あはは。本当に。そういう方面の話は、師走に聞いたほうがいいんじゃない?彼は見かけによらず遊び人だから。』
青藍の言葉に女性陣は師走に視線を向ける。


「はは・・・。今のところは大人しいだろう。」
師走は気まずそうに目を逸らす。
『そりゃあ、そうでしょう。何せ、弥生さんと顔を合わせたのだから。』
「そうだな。此奴、今、気持ち悪いくらい健全なんだが。」


『そのようだねぇ。まぁ、こちらとしては災いの種が一つ減ったから有難いけれども。』
「災いって・・・。俺、その辺は上手くやってるぞ?」
『ふふ。突然子どもを連れてこられては困るという話さ。あくまで仮定の話だけど。』
「信用ないなぁ、俺。」
師走はそう言って苦笑する。

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