色彩
■ 28.確信犯な夫たち


『当たり前でしょ。僕の愛する妻は深冬で、実花姫じゃないんだから。』
「それは、深冬の前でしか本気を見せないってこと?」
雪乃はそう言って首を傾げる。


『というよりは、深冬にしか、僕の本気は見えないってこと。』
「それはどういうことですの、兄様?」
『君たちが自分の夫を見るように、深冬が僕を見ているということ。』
「それじゃあ、あのからかいの中に、青藍様の本気があるというの?」


『そうですねぇ。そういうときも、ありますよ。というより、僕は何時でも深冬に本気です。』
楽しげに言った青藍に、四人は目を丸くする。


『僕だって男ですからね。・・・まぁ、つまり、ですね。自分の夫の欲が見えるということは、それだけ君たちが夫を見ているから、ということです。なので、諦めるほかないでしょうね。』
青藍の言葉を理解した四人は、咄嗟に顔を隠す。


「そ、それは、私たちが、勝手に、その欲を拾い上げているということ・・・?」
『えぇ。玲奈さん、蓮のこと、よく見ておられるのですねぇ。』
「そしてそれは、私にしか見えない・・・?」
『そうだよ、茶羅。燿さんの欲を見透かすことが出来るのは、茶羅だけ。』


「だ、橙晴は、駄々漏れよ・・・?」
『橙晴は隠す気ないからね。諦めて、雪乃。』
「豪紀様は、瞬きをする間に、瞳が、変わるの・・・。」
『あはは。皆そんなものでしょ。愛しい人の些細な仕草で煽られる。ま、それは、お互い様だけれども。』


確かにそうだ、と納得しかけて、四人は首を傾げる。
何故、この男はそれを知っている・・・?
そう思って、四人は青藍を見つめる。
『ん?何か?』
その視線に気づいた青藍は、首を傾げた。


「兄様、今、お互い様と、おっしゃられました?」
『うん?言ったね。』
「何故、それを・・・?」
怖いものを見るように見つめられて、青藍は小さく吹き出す。


『ふふ。愛しい人が、自分のどんな仕草に弱いか、なんて、見逃すわけがないでしょ?君たちの相手も、それぞれ気が付いていると思うよ?まぁ、こっちは無自覚に煽られるのだから、そのくらいしないとね。煽って、煽って、堕ちる瞬間が堪らない。』
妖艶に微笑まれて、四人は思わず赤くなる。


『ふふ。茶羅も雪乃も実花姫も玲奈さんも、気を付けた方がいいですよ。貴女たちの夫は、そんな確信犯ばかりですからね。』
今度は楽しげに微笑まれて、四人は力が抜ける。
何なの、この人・・・。
四人は内心で呟く。


「兄様、やっぱり、狡い人だわ・・・。妹の私でさえ、こうなのだから、他の人は堪らないわね。」
「そうね・・・。普段とのギャップがあり過ぎるわ・・・。」
「あの、小さかった青藍様が、そんな顔を、なさるなんて・・・。」
「その余裕が、腹立たしいわ・・・。」


『あはは!君たちが思うほど余裕はないよ。今度、深冬に聞いてみるといい。話してくれるかは解らないけれど。』


「・・・お前ら、昼間から、何の話をしているんだ。」
そんな呆れた声とともに、師走が姿を見せた。
「何って、猥談だろ。」
続いて睦月が現れる。


『猥談というほど、如何わしい話はしていないと思うけど。・・・で、帰ってきたということは、お仕事が終わったのかな?』
「「ただいま帰りました、ご当主。」」
二人は軽く礼をする。
『お帰り、師走、睦月。・・・報告を。』


「はい。茶羅御嬢さんを狙った不逞の輩は適当に捨ててきました。南雲燿はそのすべてに気付いていましたよ。勘の鋭い男ですねぇ、彼は。弥生が忍ばせた媚薬も難なく避けましたし。しかもそれがこちらから差し向けられたものだということまで察知しました。後でご当主に苦情が来るかもしれません。」
師走は苦笑する。


『なるほど。流石母上の秘蔵の弟子だ。では、君はもう少し自由に動かしてもよさそうだね。・・・睦月の方は?』
「深冬様を狙っている貴族の洗い出しも完了しました。こちらがその名簿です。」
睦月は言いながら書類を差し出す。
青藍はそれを受け取って目を通し始めた。


「安曇様の正体を明らかにしたことで、深冬様から取り入ろうという輩が増えております。その中には深冬様を攫って人質にしようと画策しているものも居りますので、深冬様の警護を強化した方がよろしいかと。」
『うん。そのようだね。厄介な名前が二、三、ある。』


「俺が警護に回りましょうか?」
師走に問われて青藍は首を横に振る。
『君は予定通り朽木家の領地の様子を一通り見てきてくれ。』
「解りました。」


『睦月。』
「はい。」
『護衛は君に任せる。霊術院の方には私から話をつけておこう。弥生を呼べ。霊術院には暫く彼女に居てもらう。』


「了解しました。」
「それで俺が、弥生の分の仕事も引き受ければいいんですね?」
『そう。二人とも頼んだよ。』
「「はい。」」

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