色彩
■ 26.鬼か否か


「・・・兄様、鬼ですね。」
『そう?』
ポツリと呟くように言った橙晴の言葉に、青藍は小首をかしげる。
その様は子犬のようにも見える。


しかし、その中身は獰猛な獣だ。
・・・でも兄様は、それを悟らせない。
だから、怖いのだ。
橙晴は内心で呟く。


「えぇ。僕は自分がとっても優しい奴なのではないかと思います。」
『あはは。それはないでしょ。だって、橙晴は父上に似ているもの。』
「いや、父上は別格・・・。というか、それ、父上が優しくないって言っていますよね?」


『え、事実じゃない?母上、今朝、布団から出られなくて泣いてたよ?』
「・・・やっぱり、僕、自分が優しい奴だと思います。兄様も父上も、鬼ですね。」
「・・・ほう?私は鬼か。」
『「!?」』
突然聞こえてきた声に、青藍と橙晴は声のする方を振り向く。


深冬はその隙に青藍から逃れようとするのだが、その腕はびくともしない。
その様子を白哉が見つめて、それに気が付いた深冬は助けを求めるように白哉を見返す。
しかし、深冬を咲夜の共犯者とみなしている白哉はその視線をすい、と逸らした。
・・・ひ、酷い。
私は白哉様に話していないことを知らなかったのに、と、深冬は泣きそうになる。


『父上。随分日が高くなってからのご出勤のようですねぇ。』
からかうように言う青藍に、白哉は視線を向ける。
「何か悪いか?」
『いえ。父上は大変お優しいので、何にも悪いことなどありませんよ?たまには、そんな日もありますよねぇ。僕も今日は朝餉に遅れてしまいましたし。』


「そうだな。・・・橙晴。青藍はこう言っているが、私は鬼か?」
白哉に視線を向けられて、橙晴は勢いよく首を横に振る。
「いいえ。父上はお優しいです。・・・ある方面を除いては。」
「それは橙晴とて同じことだろう。いつも雪乃を泣かしているのは誰だったか。」
「あはは。それは、雪乃が僕を煽るからいけないのです。」


『雪乃のせいにするあたり、橙晴が一番やさしくないと思うなぁ。』
「兄様だって、さっき深冬のせいにしたでしょう。」
『深冬が可愛いのが悪いよね。ねぇ、深冬?』
「・・・私に、聞かないでくれ。」


深冬は朽木家の男性陣の会話に、咲夜と雪乃に同情しながら、疲れたようにそう言ったのだった。
自分が任務に行くよりも、彼らが任務から帰ってくるのを心配しながら待つ方がよっぽどましだ、と内心で呟きながら。

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