色彩
■ 25.膝の上


翌日。
「・・・兄様。」
橙晴は目の前の光景にしびれを切らして、青藍に声を掛ける。
『なぁに、橙晴。どうかした?』


「いや、どうかしているのは兄様の方です。何故、深冬を抱えて、お仕事を?」
橙晴に言われて、青藍の膝の上に座らされている深冬は、気まずそうに目を逸らす。
『あはは。昨日ちょっと箍が外れたせいで、深冬が立てなくてね。お詫びに僕がお世話をしようかと。』


「余計なことを言うな!!!・・・い、痛い。」
楽しげな青藍に抗議するように声を上げた深冬だったが、少し動くだけでも痛いのか、涙目になる。
『こらこら、大人しくていなさい。』
「・・・青藍のせいだ。」


「・・・兄様、一体、何をしたので?」
涙目になりながら動くことも出来ない様子の深冬を見て、橙晴は恐る恐る問う。
『ふふふ。聞きたい?』
「・・・いや、やっぱり、遠慮しておきます。どうせ碌な話じゃない。」


楽しげな青藍を胡散臭げに見つめて、橙晴は次の書類に手を伸ばす。
どうせ、深冬を食べたとかそんな話しか出てこないだろう。
橙晴はそう思いながら筆を進める。


『酷いなぁ。まぁ、可愛い深冬を知るのは僕だけでいいから、教えてあげないけど。』
「えぇ。そうしてください。まぁ、深冬にご無体を強いたのでしょうが。深冬も可哀そうに。」
橙晴は気の毒そうに深冬に視線を向ける。


『可哀そう?まさか。二週間も放置されたのに、母上と帰ってきた深冬は楽しげだったんだよ?二週間、僕は深冬に会いたくて仕方なかったのに。その上父上の八つ当たりまで受けていたのに。それを見たときの気分が橙晴に解る?可哀そうなのは僕の方でしょう。』


「なるほど。だからわざわざ立てなくして、動けないのをいいことにこんなところに連れてきて、兄様はご機嫌なのですね。」
橙晴は呆れたように言う。


『そんなことないもの。最後の方は深冬がねだってきたんだもの。ねぇ、深冬?』
「な!?ちが、違うぞ!?そ、それは、青藍だ!」
問われて深冬は顔を赤くしながら否定する。
『そうだっけ?』
「そうだ!!!」


『そうだったかな・・・。』
「それに、ねだって来たくせに、私の返事を聞く気もなかった!!」
『深冬があまりにも可愛すぎて、箍が外れちゃったんだもん。』
「だもん、じゃないぞ!青藍の馬鹿!!」
深冬はそう言って青藍の頬を抓る。


『痛いよ、深冬。だから、それはごめんって。でも、あんなの、反則でしょ。何あれ。誰かに教わった?』
「ば、かじゃないのか!教わるわけがないだろう!!」
『それじゃあ、僕の教育の賜物?』
青藍は嬉しげに言う。


「な!?誤解を招くようなことを言うな!やっぱり青藍は嘘つきだ!!鬼!悪魔!大体、何でそんなに元気なのだ!?絶対におかしい!!」
『そうかな。僕はまだまだいけるけど?』
「!?」
その言葉に深冬は信じられないと言った顔をする。


『あれ、疑ってる?それじゃ、次の非番に試してみようか。』
「え・・・?」
今、試すと言ったか・・・?
深冬は自分の耳を疑う。


『・・・うん。そうしよう。楽しみだなぁ。』
「な、だ、ま、待て!だ、駄目だぞ、それは・・・。」
『もう決めちゃったし。』
「私は了承していない!」
『嫌だ。・・・何なら今日でもいいよ?』


「・・・。」
青藍の言葉に深冬は唖然とする。
『ふふ。僕は二週間も待たされたんだ。あれだけで、僕の二週間分の愛が尽きると思わないで欲しいなぁ。だから、覚悟してね、深冬。』

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