■ 24.足りなかったもの
「んは、はぁ・・・。」
二人を繋ぐ唾液が零れないように、青藍の舌が舐めとった。
酸素を取り込みながら、深冬はその様子をぼんやりと眺める。
互いの姿がぼやけるほどに近い距離。
それなのに、その姿をみた深冬の体に、ぞくり、とした震えが走る。
青藍が少し距離を取って、彼の顔がはっきりと見えるようになった。
その瞳が射抜くように見つめていて、でもどこか苦しそうで、深冬は青藍の背中に腕を回す。
「青藍・・・。」
彼の名を呼びながらその胸元に擦り寄ると、今度は苦しいほどに抱きしめられる。
それに息を詰まらせながらも、深冬もまた抱きしめ返した。
「青藍。寂しかった、か・・・?」
深冬に問われて、青藍は返事をするように彼女の髪に鼻先を埋める。
「そうか。それは、悪かった。」
宥めるように背を擦りながら、深冬は呟くように言う。
『・・・深冬。』
呟かれた声が、深冬の耳に馴染む。
与えられる温もりに、心の底から安堵する。
足りなかったのは、これだ・・・。
深冬は内心で呟く。
任務中、深冬は物足りなさを感じていたのである。
咲夜様との任務に心が浮足立って、落ち着かないだけだと、思っていたのだが。
青藍が忙しく過ごしていることを気遣って、連絡も電子書簡でしか取らなかったのである。
深冬自身、この二週間、忙しくしていたのも事実ではあるのだが。
「・・・私も、寂しかった。」
『うん・・・。』
青藍は頷きながら深冬の首筋に擦り寄る。
「ちゃんと、眠れていたか?」
『・・・うん。』
少し間が空いて頷いた青藍に、深冬は苦笑する。
「嘘を吐くな。眠れなかったのだな?」
『ん。』
「そうか。今日は、眠れそうか?」
『深冬が、一緒なら。』
「ふふ。それなら私も、今日はよく眠れそうだ。」
笑みを零した深冬に、青藍は顔を上げて額をこつん、とぶつける。
『何笑っているの。深冬の馬鹿。僕を置いて行ったくせに。』
拗ねたように言われて、深冬は苦笑する。
「それは謝る。・・・でも、青藍の顔を見ることが出来て、声を聞くことが出来て、嬉しいのだ。」
『・・・そんなこと言ったって、許してあげないもん。』
「私はどうすればいいのだ?」
『・・・深冬からキスをしてくれたら、今はそれで終わりにする。』
・・・今は?
何か引っかかる言い方だが、これ以上青藍の機嫌を損ねるのは良くない。
深冬はそう思って、青藍の頬に手を伸ばす。
「青藍。ただいま。大好きだ。」
そう言って微笑むと、深冬は拗ねたように突き出た青藍の唇に軽く口付ける。
『・・・それだけ?』
不満げに言われて深冬は困ったように微笑む。
「これから、四楓院家に行くのだろう?急いでいるのではないのか?」
『・・・もう一回。』
ねだるように言われて、深冬は再び口付けた。
今度は少し時間を長くして。
『・・・ん。仕方ないから、これでいい。でも、今日の夜は覚悟しておいてね。僕の好きにさせてもらうから。・・・さて、行きますか。夜を楽しみにしておこうっと。』
青藍はそう言って深冬の手を取って歩き出す。
「せ、青藍!?どういうことだ!?なぁ、青藍!?」
慌てたような深冬に青藍は悪戯に微笑んで、歩を進めるのだった。
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