色彩
■ 23.問答無用

四日後。
「・・・ふぅ。こっちの空気は久しぶりだなぁ、深冬。あちらはあちらで楽しかったが。」
「そうですね。あっという間の二週間でした。」
『それはそれは。さぞ楽しい二週間だったのだろうねぇ。』
穿界門から出た二人の会話に入ってくる者が一人。


「「!?」」
二人は驚きながらその声の方を向く。
『深冬、母上。お帰りなさい。』
青藍はそう言って微笑む。
しかしその瞳は笑っていない。


「「た、ただいま、青藍・・・。」」
それに気付いた二人は怯えながらも青藍にそう返す。
『・・・色々と言いたいことはあるけれど、僕はこれから四楓院家に行かなければならない。休む暇もなくて悪いけど、深冬も来てもらうよ。すぐに着替えてきてくれ。』
「わ、解った・・・。」


『うん。君は先に行っていい。四半刻後に邸に迎えに行くから急いでね。』
「はい・・・。」
青藍に言われて深冬はそそくさと逃げ出す。
咲夜は助けを求める視線を送っているのだが、その視線よりも青藍の視線に負けたらしい。
去っていく深冬を咲夜は泣きそうになりながら見つめる。


『・・・で、母上?』
深冬を見送った青藍は咲夜に向き直り、にっこりと微笑む。
「な、なんだ・・・?」
そんな青藍に震えながらも、咲夜は恐る恐る問う。


『茶羅の件の後処理から逃げ出して、深冬と二人で現世任務とは、楽しそうで何より。この二週間、僕がどれほど神経をすり減らしたか、ご存知ですよね?解らないとは言わせません。母上が居ないだけで父上は不機嫌になるのですから。それも任務に行くと伝えたのはその日の朝だというじゃありませんか。僕はてっきり父上には報告してあるものだと思ったから、渋々頷いたのですよ?ルキア姉さまと十四郎殿まで巻き込んで隠すとは、一体どういうことですか?ルキア姉さまはともかく、十四郎殿への父上の八つ当たりを止めたのは誰だとお思いで?不機嫌な父上の機嫌をこれ以上損ねないように、隊士たちとの間に入ったのは、一体誰だと思っているのですか?それでなくても僕は眠ることが出来なくて疲れ切っているというのに。ここ数日、睦月と師走にあの手この手で眠らされたお蔭で、僕は今、このようにぴんぴんしておりますが。』


段々と無表情になっていきながら口を挟む余地もなく言われて、咲夜は震える。
こ、これは、そうとう、怒らせたな・・・。


『・・・後で父上にお仕置きされることです。逃げられると思わないでください。父上のお仕置きが終わったら、僕の仕事を引き受けて頂きます。三日程、馬車馬の如く働いて頂きますので、ご覚悟を。いくら母上と言っても、容赦はいたしません。・・・それから、当然、橙晴も父上の被害を受けておりますので、何かしら母上に要求することでしょう。では、僕はもう行きます。』


咲夜の返事を待つこともせずに、青藍は踵を返して去っていく。
・・・か、帰りたくない。
いや、解ってはいたが、青藍があれ程怒っているとは・・・。
白哉などよりよっぽど怖いだろう・・・。
私に一体、何をさせる気なのだ・・・。
咲夜は顔を青くしてその背を見つめる。
その後、死にそうな咲夜が目撃されたのは、言うに及ばない。


まぁ、それはそれとして、四半刻後。
青藍は着替えに行った深冬を迎えに来ていた。
朽木邸の門の前に行くと、使用人たちに見送られて、慌てた様子で深冬が出てくるのが見える。


「うわ!?何だ!?」
そんな深冬を捕まえて、青藍は門の内側に引き戻した。
そして、門の陰に囲い込む。
空気を読んだ使用人たちは青藍に軽く一礼して仕事に戻っていく。
青藍の登場に慌てて出迎えた佐奈もまた、小さく苦笑して仕事に戻る。


「せ、青藍・・・?」
相手が青藍だと解った深冬は恐る恐るその顔を見上げた。
青藍はその顎を捕まえて、問答無用で口付ける。
「ん!?」


荒々しい口付けから逃げようと、下がろうとするが、青藍は深冬を壁と自分の体で挟むようにしてピタリと深冬を捕えている。
横にずれようにも、青藍の腕に囲われている上に、いつの間にか足の間に片足を入れられていて、動けなくなっていた。


「ん・・・だ、せ・・らん・・・。」
遠慮なく入り込んできた舌が歯列をなぞり、逃げる舌を捕えて絡め取る。
流れ込んでくる唾液を、深冬はこくり、と飲みこむ。
呼吸を奪われた深冬の目に、じわ、と涙が滲んだ。
深冬は息苦しくなって、青藍の着物を掴む。
それに気が付いたのか、青藍は深冬の舌を大きく吸い上げてから、その唇を離した。

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