色彩
■ 21.難儀な奴


「解ってへんなぁ。探すのが面白いんやん。教えて貰って真似するんは簡単やで。でも、お洒落さんなオレとしては、それじゃあ納得いかへんねや。」
『そう言うものですか?』
「そうやねん!」


『・・・じゃあ、睦月特製の石鹸はいりませんね。今日のお礼にあげようと思ったのに。』
「それは欲しいねん!!!今からそれを言おうと思ってん!!」
叫ぶように言われて、青藍は思わず耳を塞ぐ。


『寝不足の頭に響きます。叫ばないで頂けると・・・。』
「おう、すまん。」
「欲しいなら差し上げますよ。ほら、これ。青藍のものとは違いますが。手持ちはこれしかないもので。試作品ですので、後でご感想を。」
睦月は懐から石鹸を取り出しながら言う。


「おおきに!これもええ匂いやなぁ。またオレの男前度が上がってまうわ。これで次の男性死神人気投票で青藍に勝ったるで!」
「・・・残念ながら、青藍はすでに殿堂入りしておりまして。投票があってもランク外です。」


「なんやと!?」
しれっと言われて真子はあり得ないと言った顔をする。
『七年連続一位だったものですから、いい加減殿堂入りになったそうですよ。良かったですね、真子さん。これで一位に近付きました。まぁ、父上と橙晴、冬獅郎さんという強敵がいますが。』


「うわ、腹立つ!!なんやねん!余裕でむかつくわ!」
「・・・青藍、出来たぞ。さぁ、飲め。」
『うん。』
「無視すなや!」


ごくり。
青藍は薬を飲みこむと、すぐに頭をふらつかせて、そのまま倒れそうになる。
「よっと・・・。」
睦月は慣れた様子でそれを支えて、青藍の顔を覗き込んだ。
「よし。寝たな。」


「・・・いやいやいや、おかしない!?速攻過ぎるやろ!」
薬を飲んだ瞬間、すやすやと眠り始めた青藍に、真子は目を丸くする。
「そうですか?まぁ、睡眠薬は嘘です。いや、飲ませたのも一応睡眠薬ですけど。本命はこっち。」
睦月はそう言って青藍が握っている香袋を指さす。


「香袋・・・?」
真子は首を傾げる。
「えぇ。揮発性の睡眠導入剤が入っています。」
「そうなん?でも、それは、深冬ちゃんのやろ?」


「それも嘘です。深冬の香りであるのは間違いありませんが、これは此奴を寝かせるために作った特別仕様ですよ。此奴が最近寝ていないことには気付いていたもので。昔から何かあると寝つきの悪い奴でね。平子さんが居なければ飯も抜いていたことでしょう。本当に困った主です。」
睦月はそう言って青藍の頬をつまむ。
不快そうに眉をひそめたものの、青藍は夢の中である。


「・・・咲夜さんにも困ったものです。深冬に経験を積ませるためとはいえ、深冬を連れていけば青藍がこうなることだって解っていただろうに。白哉さんのご機嫌取りだって、誰がすると思っているのやら。此奴もこいつで自分の身を顧みない。せめて、茶羅の件がもう少し落ち着いてからにして欲しい・・・。」
睦月は深いため息を吐く。


「なんや、そいつ、そないに大変なんか?」
「これでも青藍は、咲夜さん並み・・・いや、それ以上に厄介な奴でして。いつもへらへらして隠していますが、色々と大変なんですよ。貴方なら、解るでしょう?あの人がどれほど不安定か。いや、不安定「だった」か。」
「せやな。」


「その上、今は茶羅のことで落ち込んでも居るんです。」
「茶羅ちゃん?まだ、妹離れ出来んのかいな。」
真子は呆れたように言う。


「まぁ、それもありますが。此奴は本当に籠の鳥なんですよ。翼があっても、飛べない。本当は自分が一番飛びたいのに。茶羅が飛び立って、自分も飛び立つことが出来るのではないかと、期待して。でも、その期待は裏切られる。どんなに考えても、青藍は自由にはなれない。それが解っているから、余計辛いんでしょう。言葉にはしませんがね。」
「そうかァ。難儀なやっちゃ。」


「本当に。・・・さてと。師走!隠れてないで出て来い!青藍を運ぶぞ!」
睦月の声に応えるように、師走が姿を見せた。
「なんや、緑の兄ちゃんその二が出てきよった。」
真子は特に驚いた様子もなく淡々という。


「その二って・・・。一応俺が兄ですよ。」
「一応な。俺はお前を兄と認めてなんかないぞ。」
「素直じゃないねぇ。昔は兄ちゃん、兄ちゃんと俺の後ろを付いて回っていたくせに。」
「黙れ。」
「おー怖い。」
睦月に睨まれて、師走は降参するように両手を上げる。

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