色彩
■ 20.医者の範疇

「そうかァ。それは気の毒やのう・・・。」
真子は同情するように青藍を見る。
『うぅ・・・。そんな可哀そうな者を見る目で見ないでください・・・。泣きたくなります・・・。』


「そういうなや・・・。困るやろ、オレが。」
『やっぱり酷い・・・。はぁ。深冬に会えない上にこの忙しさ。そして眠れない。そりゃあ、頭がおかしくもなります。あと四日・・・。僕は耐えることが出来るだろうか・・・。』
青藍はそう言って頭を抱える。


「とりあえず、それ食い終わったら昼寝でもせェ。少しは冷静になるやろ。」
『それが、出来ないんですよ・・・。』
「なんでや?」
『眠れないから寝る暇がないほど忙しくしているんじゃないですか・・・。』


「・・・は?」
青藍の言葉に真子は面食らう。
「そないアホな奴この世におるん・・・?」
『五月蝿いですね。眠れないから、困っているんです!きっと深冬を抱きしめればすぐに眠ることが出来るのに・・・。』


「・・・やっぱ頭おかしいわ。卯ノ花隊長にでも診てもらった方がええで。睡眠薬ぐらい処方してくれるやろ。それか、何かとお前の傍に居る緑の兄ちゃんに診て貰えばええやんけ。朽木家の医者なんやろ?」


「・・・そうしてくれると、有難いんですがねぇ。」
『「!?」』
突然聞こえてきた声に、青藍と真子は目を丸くする。
すぐに影が降りてきて、青藍の隣に音もなく着地した。


『む、睦月・・・。』
「どうも。うちの阿呆がご迷惑をお掛けしたようで。」
「なんや、保護者の登場かいな。」


「えぇ。俺は医者兼目付けでしてね。何せ、この阿呆、放って置くと死ぬまで働くものですから。・・・そういうことは早く言え、馬鹿青藍!」
睦月は遠慮なく青藍の頭を引っ叩く。
『痛いよ、睦月・・・。』
青藍は涙目になりながら叩かれた場所を撫でる。


「何度言っても聞かないお前が悪い。飯は・・・食べてんのか。次の仕事があるが、それは橙晴に投げる。それ食べ終わったら、薬を飲んで、強制的に眠れ。」
『えぇ・・・。苦いから嫌だ。』
「ほう?それじゃあ、俺が眠らせてやってもいいが?すぐに寝付かせてやる。」
睦月はそう言って手刀を青藍に向ける。


『いや、あの、はい。飲みます。飲むからそれはやめて・・・。』
「見かけによらず、武闘派やな・・・。」
それを見た真子は怯えたように距離を取る。


「そりゃあ、咲夜さんと白哉さんに鍛えられていますからね。」
言いながら何処からか薬研と薬草を取り出して薬を作り始める。
「今、どっから取り出したんや・・・?」
「企業秘密です。」


『それで眠れるかな・・・。』
天丼を食べ終えた青藍は、睦月の手元を見ながら不安げに呟く。
「お前はこれだけじゃ、意地でも寝ないだろうな。だから、ほら、これやる。」
睦月は懐から小さな香袋を取り出す。
青藍はそれを受け取って鼻をすんすんさせた。


『・・・深冬のやつだ!』
「そうだ。現世に行くときに渡し損ねたが、まぁ、これはこれで良かったかもな。」
「緑の兄ちゃん、なんでそんなもんまで持ってるんや?」
「俺が作ったからですが?」
問われて睦月は当然のように答える。


「ほんまに!?兄ちゃん、医者やろ。」
「まぁ、そうですねぇ。」
「何者や・・・。」
「ただの医者ですよ。俺の薬草園にあるもので作っているだけです。青藍のもそうです。」


「なんやて!?じゃあ、青藍のこのいいにおいも、お前が作ったんか!?こいつ、いつもめっちゃええ匂いすんねん!さっきも頭撫でたらいい匂いやってん!」
真子はそういって先ほど青藍を撫でた手の匂いを嗅ぐ。


『いや、もう残っていないと思いますよ・・・。ていうか、やめてください・・・。』
「こいつだけやない。橙晴もええ匂いすんねん。それもか!?」
「そうですね。朽木家の皆さんが使う石鹸や香の類は、最近全部俺が作っています。」
「石鹸の類も!?じゃあ、あれか。青藍の髪がさらっさらなんは、お前のお蔭か!?」


「まぁ、そうですねぇ。元から髪質は良いものですが。・・・青藍、出来たぞ。飲め。」
『えぇ・・・。粉は嫌だ。せめて丸薬にして?お願い、睦月・・・。』
睦月に差し出された薬を見て、青藍はねだるように言う。
「・・・仕方ないな。」
『やった!ありがと、睦月。』


「甘えんぼか!!!・・・いやいや、それはええねん!問題はこっちや!なんなん!?朽木家、皆そんなん使ってんのかいな。」
「そうですねぇ。頭のてっぺんからつま先まで、俺が管理していますので。何せ、俺は朽木家付きの医者ですからね。それも今や医師団の長にまでなってしまいまして。」
薬を丸めながら睦月はどうでも良さそうに言う。


「いや、医者の範疇超えとるやろ・・・。しかし、そうかァ。兄ちゃんの仕業やってんな。道理で見つからんわけや。」
真子はそう言ってため息を吐いた。
『探していたんですか?それなら僕に言ってくれれば教えたのに。』
きょとんとしながら言われて、真子は再びため息を吐く。

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