色彩
■ 19.天丼

茶羅の祝言から一か月。
『・・・僕、死にそう。』
青藍はそう言って机にへばりついた。
場所は五番隊執務室。
豪紀の席である。


本人は己の祝言が一か月後に控えているため、忙しくしているらしい。
そのため豪紀が執務室に腰を落ち着かせていることは少ない。
その代わりに、何故か青藍が五番隊に入り浸っているのである。


かといって、豪紀に会いに来ているわけでもないのだが。
五番隊の隊士たちは戸惑いつつも、青藍から視線を逸らして仕事を進める。
それを知った桃が青藍を叱りに来たのだが、青藍はそれを右から左に受け流す。
言うだけ無駄だと悟ったのか、桃は盛大な溜め息を吐いて、仕事に戻った。


「・・・なんや、また居るんかいな。」
そんな時、ふらりと執務室に入ってきた真子が呆れたように声を掛ける。
『あ、真子さん・・・。お疲れ様です。』
青藍は弱々しく返事をした。


「何やねん。辛気臭い声出すなや。雰囲気暗くなるやんけ。」
そんなことを言いながらも、青藍の様子が気になるのか、真子は青藍の顔を覗き込む。
「死にそうな顔してんで。ちゃんと寝てんのかいな。」
『・・・寝る暇が、ないんですよ。茶羅の件で、無茶を通したので、その、後始末に駆け回るばかりで。僕の評価はだだ下がりです。まぁ、それはどうでもいいですけど。』


「そうかァ。大変やのう。しゃあないからオレが褒めたるわ。ようやったな、青藍。」
真子はそう言いながら青藍の頭を撫でる。
「相変わらず、腹立つくらい綺麗な髪やのう。さらっさらやんけ。」
気に入らないのか、真子は青藍の頭をぐしゃぐしゃにする。


『・・・真子さん。』
されるがままになりながら、青藍は呟くように名を呼ぶ。
「なんや?」
『・・・お腹すいた。』


「オレはお前の母ちゃんか!サクに頼めや。」
『あの母上が、ご飯を作るわけ、ないでしょう・・・。』
「そういうこと言うてんとちゃうわ!・・・ったく、しゃあない。ほら、行くで。」
真子はため息を吐いて、青藍の腕を引いて立たせる。


『真子さん、僕のお母さんになってくれるんですか?』
「アホ!誰がお前の母ちゃんやねん。生んだ覚えないわボケ!・・・腹減ってんやろ。オレもこれから昼飯やねん。付き合えや。」


『やったぁ、真子さんの奢り・・・。』
「ちゃうわ、アホ!お前の方が金持ちやんけ。・・・いいからちゃんと歩けや!」
真子は文句を言いながらも青藍を支えて執務室から連れ出す。


「・・・で、どないしたん?」
天丼に箸をつけながら、真子は怪訝そうに青藍を見る。
ちなみにここは真子お気に入りの天丼屋。
扱っているのは天丼のみ。
にもかかわらず、店内は洒落ており、何故か個室完備の不思議な隠れ家的お店である。


『どうもなにも、忙しすぎて、頭がおかしくなりそうです。』
鱚の天ぷらを咀嚼しながら、青藍は疲れたように言う。
「もともとおかしいやんけ。今更気付いたんか。」
『え、酷い・・・。僕のこと、そんな風に思っていたんですか・・・。』
「事実やろ。・・・で?忙しいだけか?」


『・・・深冬に、会いたい。』
青藍はポツリと呟く。
「なんや、そんなことかいな。心配して損したわ。」
真子は呆れたように言って箸を進める。


『そんなことじゃありません!この十日間、深冬の姿を見ることも出来ないなんて・・・。』
青藍はそう言って項垂れる。
「会いに行けばええやんけ。何で五番隊に入り浸ってん・・・。」


『・・・だって、二週間の現世任務なんですもん。』
拗ねたように言った青藍に、真子は呆けた顔をする。
「・・・深冬ちゃん、行かせたんか?お前が?」


『母上に押し切られたんです!母上と深冬で、現世任務なんですよ!お蔭で、父上まで機嫌が悪くて仕方がない・・・。』
「そんで五番隊に逃げてきてんのかいな。阿散井副隊長も橙晴も気の毒に。」


『恋次さんは任務でほとんど隊舎に居ないんですよ。それで、橙晴は早々に四番隊へ避難しました。いいなぁ、橙晴は。雪乃に会えて。』
青藍はそう言って唇を尖らせる。
「オレに当たるなや・・・。しっかし、サクもようやるわ。後で朽木隊長に痛い目に遭うで。学習能力ないんちゃうか。」


『そんなの今に始まったことじゃありません。問題なのは、深冬を巻き込んだということです。何なんですか!二人して楽しそうに準備しちゃって!僕なんか、深冬と新婚旅行に出かけることはおろか、どこかに一泊したことすらないのに!』
青藍は忌々しげにイカの天ぷらに齧り付いた。

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