色彩
■ 18.確かな温もり

「茶羅。とても、綺麗だ。」
「そうね。燿さんも格好いいわ。」
「ふふ。ありがとう。これからも、兄様方をよろしくね。」


「もちろん。」
「任せなさい。」
力強く頷いた深冬と雪乃の頬に、茶羅は手を伸ばす。


「本当に、ありがとう。我が儘な私を、許してね。」
「茶羅が幸せになるのが、一番なのだ。それに・・・私たちも、幸せなのだ。」
「そうね。だから茶羅も幸せなのよ。絶対にね。」
悪戯に笑う二人に、茶羅は笑みを零した。


「確かに、幸せだわ。・・・銀嶺お爺様も、私の我が儘を通してくださったわ。何とお礼を言ったらいいか・・・。」
「ほほ。この年寄りでも役に立てたようで何より。お礼は、琥珀庵に足を運んだ時に、茶羅が笑ってくれていればよい。良いな?」
「はい、銀嶺お爺様。飛び切りの笑顔でお迎えいたします。」


『・・・さぁ、別れは惜しいが、もう行きなさい。君はもう自由だ。力強い翼と、大きな空を手に入れたのだから。』
「はい。ここに居る皆様、全員が、私を、私たちを、自由にしてくれました。皆様、本当にありがとうございます。」
茶羅と燿は深々と頭を下げる。


『構わない。私たちに遠慮などいらないよ。困ったことがあれば、兄として力になろう。朽木の家とは縁が切れても、家族の縁は切れない。』
「えぇ。青藍兄様の言う通りですわ。私には、こんなに心強い家族が居るのですもの。何があろうと、負けないわ。見ていらしてね、青藍兄様。」


『あぁ。見守ろう。行ってらっしゃい、茶羅。』
「えぇ。行ってくるわ。」
茶羅はそう言って飛び切りの微笑みを見せると、門の外へと一歩を踏み出す。
一同は、二人の姿に大きな声を贈りながら、その姿が見えなくなるまで、見送ったのだった。


姿が見えなくなって、門が閉じられた。
・・・行ってしまった。
これが、僕の役目。
その門に右手を当てて、青藍は内心で呟く。


寂しくないとは言わないし、羨ましくないとは言えない。
茶羅を解き放つ準備を進めながら、これで自由になるのが自分だったらと、茶羅を閉じ込めて自分が飛び立ってしまいたいと、何度思ったことか。
・・・酷い兄だ。
青藍は自嘲する。


そんな青藍の左手に、するりと指が絡められる。
いつの間にか深冬が隣に来ていたのだ。
青藍はその手を握り返す。
その温もりが、確かに隣にあることを感じて、青藍は凛と前を見据える。
そして、その様子を伺っていた面々を振り返ったのだった。


『・・・さぁ、主役は居なくなってしまいましたが、宴の用意がございます。我らで存分に二人を祝福いたしましょう。』
そう微笑みながら言った青藍に、歓声が上がる。


「南雲家より、美味しいお菓子も頂きました。皆様、どうぞ、ご賞味くださいませ。」
「今日に限って、周防家の笛が聞き放題にございます。」
雪乃と橙晴の言葉に、さらに大きな歓声が上がる。


「周防家の笛があるのですから、漣家の舞も、お付けいたしましょうか。ねぇ、叔母上?」
「そうですね。私も興が乗りました。弥彦、瑛二、笛を。」
咲夜と天音に言われて、二人は苦笑しながら笛を取り出す。


「咲夜・・・。勝手なことをしおって・・・。」
白哉は不満げに呟く。
『ふふ。仕方ありませんよ、父上。ほら、私たちも楽しみましょう。』
「そうです。行きましょう、白哉様。」
青藍と深冬に手を引かれて、白哉は仕方なく歩き出す。


「ほほ。儂らも楽しむとするか、ルキア。」
「そうですね。」
銀嶺とルキアもまた宴の中心へと歩を進める。


周防家の笛の音に、豪紀が渋々加わって、それから青藍もまた、漣の舞に加わった。
死神たちはどんちゃん騒ぎ。
浮竹と京楽はそれに苦笑しながらも、二人で酒を呑む。
その楽しげな声は、流魂街にまで響き渡ったとか。
後に、この祝言は「茶羅姫事件」として後世にまで語り継がれることとなる。

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