色彩
■ 17.見送り

傍から見ればそれは一瞬のこと。
彼らの動きを目で追うことが出来たのは、一部の者だけ。


「・・・は、はぁ。俺の、勝ちです。茶羅は、俺が、貰います。」
息を切らして、燿は何とか言葉を紡ぐ。
その声がしんとした会場に響いて、それから、大きな歓声が湧き上がる。
南雲家、周防家の面々は顔を青くしてそれを見つめているが、燿の無事を確認して、ほっと一息つく。


「刀を、お引きください。そのような脅しに屈して、茶羅を諦める俺じゃありません!茶羅は、俺が、引き受けます!!!」
凛と言い放った燿に、三人は力を抜いて斬魄刀を鞘に収める。


『これでは、敵いませんねぇ、父上?どうやら、我が母は、燿を大層気に入っておられる様子。私たちの知らないところで、母上の入れ知恵があったようです。』
「そうだな。咲夜が相手では、分が悪い。」
「えぇ。母上を味方にした燿の方が、一枚上手だったということですね。」


『降参です、南雲燿。』
「我らの刃を潜り抜け、尚且つ恐れもしないとは、並大抵の方ではありませんね。」
「認めよう。・・・連れていけ。茶羅を、頼む。」
「はい。大切に、致します。」
燿はそう言って茶羅を抱きしめる。


「・・・父上も兄様方も、狙っている部分がえげつない・・・。」
燿の腕の中から茶羅は不満げに言う。
『ふふ。大事な茶羅だからね。』
「そうそう。このくらいのこと、潜り抜けてもらわないと。まぁ、父上まで追いつかないのは予想外でしたけど。」


「どうやら私は燿を見縊っていたようだ。」
「あはは。皆さんの本気度が伝わってきて、俺は寿命が縮みましたよ。でも、これで茶羅は俺のものです。誰にも文句は言わせません。」


「・・・ふふ。白哉様も青藍も橙晴も、大人げないですわ。」
「そうですわね。一体、何度燿殿を試せば気が済むのやら。」
咲夜に続いて雪乃が呆れたように言う。


「大切な妹故、仕方ありません。父として、兄として、複雑なのでしょう。」
「これまで大切に、それはもう、大切に、真綿に包むようにして、守ってこられましたからね。」
そんな二人に、深冬とルキアは苦笑するように言う。


「それにしても、殿方の賭けは物騒にございますわ。」
「本当に。白哉様、青藍様、橙晴様、お三方とも諦めが悪いのね。その賭けに乗る燿殿もまた大概ですわ。」
「そうですね。私は胆が冷えました。」
「私も。」


『おやおや、朽木家の女性陣は、皆、燿の味方らしい。』
彼女らの会話を聞いて、青藍は悪戯に言う。
「そのようだな。ああいわれては堪らぬ。」
「えぇ。彼女たちを味方に付けるとは、燿という男は侮れませんねぇ。」


『本当に。ですが、言われっぱなしというのは、男が廃りましょう。ここは潔く、彼らの門出を見送ることに致しましょう。・・・睦月、師走。準備は良いね?』
「はい。お見送りの準備は整ってございます。」
「これより、我らがお二人の新居へお連れ致しましょう。」


睦月と師走はそう言うと茶羅と燿を先導する。
二人は祝いの言葉を掛けられながら、門の方へと歩き出す。
朽木家の面々は、それを追うようにして門へと歩を進めた。
門の直前で、茶羅たちは足を止める。
そして、振り向いた。


「父上、母上、青藍兄様、橙晴。ルキア姉さま、深冬、雪乃。銀嶺お爺様。」
振り向いた茶羅は、泣きそうな表情だ。
「茶羅。私たちが見送るのは、此処までだ。そなたはもう、朽木家の者ではない。」
「ですが、貴方が私たちの娘であることは、変わりありません。」
白哉と咲夜はそう言って茶羅の頬に手を伸ばす。


「はい。父上、母上。」
「どうか、私たちの子が、朗らかに笑い、その声が、私たちの元へ届きますように。」
「たまには顔を見せに来ることだ。」
二人はそう言って茶羅の頬を一撫でして手を下ろす。


「燿。茶羅を、よろしくお願いします。」
「頼んだぞ、燿。」
「はい。」
頷いた燿を見て、二人は後ろに下がった。


『「「茶羅。」」』
白哉たちと入れ替わるように、青藍と橙晴、ルキアが傍に寄る。
青藍と橙晴は、茶羅の手を取り、恭しく持ち上げて、その甲に唇を落とす。


『「我らが姫に、祝福を。」』
「ふふ。兄様方ったら。深冬と雪乃に怒られますわよ?」
『もちろん、許可は取ってあるさ。』
「えぇ。茶羅こそ、こんなに普通に受け入れては、燿に怒られるよ?」
「あら、そうかしら?これからは気を付けるわ。」


「ははは。流石茶羅だ。これなら心配ない。・・・燿も苦労するようだな。」
悪戯に笑った茶羅をみて、ルキアは苦笑する。
「そのようで。でも、あの義兄たちでは、文句を言うことも出来やしない。」


「確かにそうだ。・・・頼んだぞ、燿。」
「はい。」
笑いながら二人から離れた三人に続いて深冬、雪乃、銀嶺が傍に寄る。

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