色彩
■ 13.不干渉


音が消えると同時に、その場に沈黙が降りる。
「・・・・・・ふ、ふふ。ははは!!!」
弥彦は堪えきれず、大声で笑う。
その笑い声に、弥彦に視線が集中する。


「ははは・・・。あぁ、これでは、君が、周防の者でないなどと、誰一人として、言えないねぇ。あの「四神」をここまで奏でるとは!私が今まで聞いたどの「四神」よりも、「四神」らしい!!並みの者じゃあ、これほど吹けまい。」
楽しげに言う弥彦に、青藍たちもまた、瑛二に賛辞を述べた。


「あら、貴方がそこまで言うなんて、珍しいわね。」
「そうかい?いやぁ、想像以上だった。出藍の誉れとは、こういうことを言うのだろうね。そう思わない、「主計兄さん」?」
「「「「!!??」」」」
「ほう?公の場で周防の者であると明かすのは初めてだな。」


「こんなものを聞かされちゃ、私は師として名乗りを上げなくてはね。この漣弥彦もまた、周防に連なる者だ。瑛二君、その技量を私に隠しているとは、狡くないかい?」
「別に隠していた訳ではありませんよ。弥彦叔父がどこぞをほっつき歩いているからです。その内本当に天音様に愛想を尽かされるのでは?」


「あはは。瑛二も言うねぇ。まぁ、私もそう思っているところだけれど。」
「慶一君!?」
「そうね。私も夫を変えようかしら。いつも何処に居るか解らない夫なんて、居ないのと同じですもの。」
「何だって!?」
天音にしれっと言われて、弥彦は慌てる。


「それに、弥彦叔父さん、いい加減、霊王宮から逃げ回るの、やめて頂けません?十五夜様が、叔父さんを探しにいつも周防家に来るのですが。」
「そうだの。迷惑で仕方がない。大人しく捕まれ、弥彦。」
「主計兄さんまでそんなことを言う。勘弁してよ。堅苦しいったらないんだから!」


「・・・ごほん。弥彦殿はともかく、そこに、おられる、瑛二殿が、周防家の者だということはよく解りました。しかし、流魂街に居るということは、瑛二殿は既に周防家の者にあらず。やはり、此度の婚姻は掟に反しまする。」
楽しげな周防家の面々に、貴族の一人がそう声を上げる。
それに賛同する声も上がった。


『それはどうでしょうか。ねぇ、橙晴?』
「そうですねぇ。我々「貴族」の婚姻は、貴族同士が原則でございます。しかし、茶羅は、もう、「貴族」ではございません。」
「「「何・・・?」」」
微笑みながらそう言った橙晴に、皆訳が分からないと言った顔をする。


「茶羅は、私たちの妹は、すでに、朽木家から籍を抜いてあります。この婚姻は、すでに、貴族の婚姻にはございません。流魂街の民の婚姻にございます。我らは、その婚姻を承認しているにすぎません。貴方方が何を言おうと、この婚姻は既に成立しております。」


『そういうことです。そして、茶羅と燿との間に子が生まれたとしても、その子を、朽木家の者として認めることはございません。何があろうと。』
「当然、周防家もそれを認めない。」
青藍の言葉に、頷きながら、慶一は言葉を加える。


『そして、朽木、周防両家は、琥珀庵の一顧客に過ぎません。顧客の分を超える利益を、南雲家に与えることもございません。先ほど、二人にはその旨、書面にて確認し、署名をして頂きました。こちらが、その書面にございます。この書面に二人が目を通したという証人として、漣家、京楽家、加賀美家、朝比奈家の方にも署名を頂きました。間違いありませんね?』


青藍はその書面を貴族たちの前に広げる。
そこにはまぎれもなく本人の署名があり、各家の家紋が捺印されている。
それをみて、貴族たちは呻くように頷く。


「し、しかし、そうだとしても、これは掟を無視している。それ以前の問題にございます。よって、この書類も役目を果たしはしません。」
「そ、そうですぞ!」
「これでは納得できませぬ!」


『・・・先ほどから掟、掟と申しておられますが、一つ、お忘れではございませんか?』
諦めの悪い貴族たちに、青藍は冷たく問いかける。
『その掟の中には、「不干渉」の掟があることを知らぬはずはないと思いますが。』
言われて彼らは返答に詰まる。


『この「不干渉」の掟は、他家の内政に干渉してはならぬというものです。その内政の中には、婚姻も含まれてございます。既に成立している婚姻を他家の者が破ることは出来ません。そして、家人の籍を外すということも、内政として認められて居ります。先ほどこの二人は夫婦となった上に、茶羅の籍は既に朽木家にない。』
そこまで言って、青藍は微笑みを見せる。


『つまり、貴方方は、この婚姻に口出しをすることが出来ません。とはいっても、それでは納得して頂けないことでしょう。ですので、皆様方に是非を問いましょう。・・・朽木家当主、および、朽木家一同は、この婚姻に異議はございません!』
青藍の凛とした声がその場に響き渡る。

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