色彩
■ 10.娘と妹、父と兄


『「「・・・。」」』
少し時間をおいてから茶羅の元へ向かった三人は、茶羅の姿を見て言葉をなくす。
「父上?青藍兄様?橙晴?・・・どうかしまして?」
動きを止めてまじまじと茶羅を見つめる三人に、茶羅は首を傾げる。
その隣で燿は苦笑した。


「皆さん、茶羅に見惚れているんじゃないかな。茶羅はいつも綺麗だけれど、今日の茶羅は飛び切り綺麗だから。ねぇ、皆さん?」
「・・・あぁ。そうだな。咲夜に見えて驚いた。」
「茶羅、とても綺麗だ。」


『燿に渡すのがますます惜しいなぁ。後で琥珀庵に燿を苛めに行こう。』
「あはは。青藍君、それは勘弁して。」
「ふふ。青藍兄様は相変わらずね。」


「茶羅。」
「はい、父上。」
白哉に呼ばれて、茶羅は微笑む。


「安曇と、十五夜からの祝いの品だ。付けてやろう。」
「はい。」
白哉はゆっくりと、茶羅に耳飾りをつける。
付け終わると茶羅をまじまじと見つめてから笑みを零した。


「よく似合う。・・・本当に、美しくなったな。」
「ありがとうございます。」
微笑む茶羅の額に白哉は自分のそれを近づけて、瞼を閉じる。
釣られたように茶羅も瞼を閉じた。


「・・・何があろうと、何処に居ようと、そなたは、私と咲夜の子だ。私たちの、自慢の娘だ。飛び立つことを躊躇わず、何処までも飛んでゆけ。いつでも、見守ろう。」
白哉は呟くように言って、瞼を開ける。


「はい、父上。」
頷きを返した茶羅に小さく微笑んで、幼子にするように額をくっつけた。
茶羅はくすぐったそうに身じろいで、ぱちりと瞼を開く。


「父上。」
「何だ。」
「・・・大好き。」
そう言って笑った茶羅の表情が、幼い頃のそれと変わらず、白哉は苦笑を零す。


「あまり可愛いことを言うな、馬鹿者。それでなくとも手放しがたいというのに・・・。」
「父上ったら欲張りね。母上に妬かれますわよ?」
「それは困る。」


「では、仕方ありませんわ。」
「そうか。そうだな。」
二人はくすくすと笑って、額を離した。


『茶羅。』
「青藍兄様。兄様もずっと私の兄様で居てくれるのでしょう?」
近付いてきた青藍に、茶羅は悪戯に微笑む。
『ふふ。もちろん。茶羅は、ずっと僕の妹だよ。僕の、大切な、妹だ。君が笑顔で居られるように祈っている。』


「はい。茶羅は、兄様の妹として生まれたこと、大変幸福に思います。兄様から頂いた愛情が、茶羅の力になります。だから、私も兄様の力になることが出来るよう、精進致します。兄様が呼べば、茶羅は何処へでも飛んでいきますわ。兄様が下さった翼がありますもの。」
『うん。そうしておくれ。でも、あんまり燿を置いてきぼりにしないようにね。』
「ふふ。はい。気を付けますわ。」


「茶羅。」
橙晴はそう名を呼んで、茶羅の手を取る。
「橙晴。」
「僕らが一緒に居た時間は誰よりも長い。何せ、生まれる前から一緒に居るのだから。」
「えぇ。そうね。」


「茶羅はいつだって僕の傍に居てくれたね。」
「橙晴もいつだって私の傍に居てくれたわ。」
「うん。」
頷きながら橙晴は茶羅の手の甲を自分の額に当てる。


「・・・茶羅。僕らの繋がりは、誰にも断ち切れない。これからもずっと一緒だ。」
「ふふ。ずっと一緒よ。近くに居なくても、私たちは繋がっている。だから橙晴、そんな顔をしないで。私まで寂しくなってしまうわ。」
茶羅はそう言ってもう一方の手を橙晴の頬に添える。


「だって、茶羅は、燿の元へ行ってしまうのでしょう?」
「行くわ。父上や青藍兄様、橙晴、母上、ルキア姉さまに銀嶺お爺様。他にもたくさんの人が、私に翼を与えてくれるの。そして、燿が私に大空をくれるのよ。だから、私は、飛んでいくわ。」
真っ直ぐに言われて、橙晴は苦笑する。


「やっぱり茶羅には敵わないなぁ。」
「そうかしら。私は橙晴に敵うと思ったことなど一度もないわ。貴方は凄い人よ。橙晴は、絶対に父上を超えるもの。青藍兄様なんか、敵じゃないんだから。」
「ふふ。茶羅にそう言われると、出来そうな気がするなぁ。」


「絶対にできるわ。私が保障する。」
「うん。ありがとう。僕も、その期待に応えなきゃね。」
「えぇ。橙晴が隊長羽織を着ることになったら、誰よりも先に見せてね。約束よ?」
「ふふ。うん。約束するよ。誰よりも最初に、茶羅の元へ行こう。」


『さぁ、そろそろ時間だ。皆さんお待ちかねだよ。邸の外は何やら騒がしいけれど、何かあっても狼狽えないように。そのうち貴族の方々が雪崩れ込んでくる。』
「あら、それは大変ね。」
「そうだねぇ。どうしようか。」
そう言いながらも茶羅と燿は楽しげである。


「安心しろ。茶羅が狙われるようなことがあれば、この私が茶羅を抱えて逃げてやる。」
「ふふ。父上が護衛とは、贅沢だわ。」
「つまり、俺は自分で何とかしろという訳ですね・・・。」
「当然だ。そのくらいのことが出来なければ、茶羅の夫は務まらぬぞ。」


「では、切り抜けて見せましょう。」
「燿ってば格好いい。」
『あはは。本当に頼もしいや。では、行きましょうか。』

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